「それで、もう1つの相談とは何だね」とスティーブが健太に尋ねた。
「はい。新製品の開発について、生産、調達、営業からもメンバーを加えてタスクフォース(特別任務チーム)を作りたいのです。山田さんからは人員の補充が必要だと頼まれましたので、瀬戸顧問にお願いして、本社から技術者を2~3名派遣してもらうように手配しました。彼らには、設計の一部見直しをサポートしてもらいます。しかし、新製品開発は、開発部門の人員だけでは解決できないと思います。生産、調達、営業などの部署を跨いだ組織横断的な活動が必要です。ぜひ、それらの部署からも参加メンバーを派遣してもらえないでしょうか」
「なぜそう思うのかね?」
「コーダの開発が始まってから、すでに数年が経っています。現時点での顧客のニーズを満たしているかを確認しながら、営業担当者からのインプットを設計に反映させる必要があります。また、コストを抑えて生産するためにはサプライヤーの協力も不可欠です。私が初めて参加した定例報告会では皆が責任の押しつけ合いをしていましたが、それでは新製品の開発は前に進みません。山田さんも、これには同意見です」
「なるほど、健太の提案はもっともだな。チョウさんとウェイさんには話をしておくよ。いつチームをキックオフする予定なんだい?」
「本社からの技術者が到着次第すぐにと考えています」
「わかった。静音ルームとメンバーの件は、それまでに態勢を整えるように指示しておくよ」
健太はこれで〈本日やることリスト〉を網羅し、ほっと一息ついた。時計は午後6時を回っていた。
調達コストの抜本的な見直し
健太が翌朝出社すると、麻理が真剣な表情で何やら分析していた。
「健太さん、これを見て」麻理がグラフ付きの資料を差し出した。
「これは、コスト水準の比較表かな?」
「そう。小城山上海と中国の上場コンプレッサーメーカーを比較したもの。これを見ると売上に占める製造原価の比率が、他社に比べて明らかに高いわ。この会社の管理部門は小規模だから、間接費の比率は遜色ないはずよ」
「これはわかりやすいね。でも、製造原価の細目まではわからないのが残念だな」
「上場企業でも、これ以上のデータは公開していないわ。でも、小城山上海がコスト面でどれくらい見劣りしているか、どの程度のコスト削減を目標にすべきかの目安がわかるわ」
「他社の製造原価率75パーセントに比べると、小城山上海は85パーセントとかなり高いね。コンプレッサーはコモディティ製品だから価格競争が厳しいのはわかるが、それにしても高すぎる。競合に追いつくには10パーセントの改善はほしいな」
「原価を削減しないといけないわね。それもかなり大胆に」
「今進めている生産品質の改善でも製造原価は改善すると思うけど、その効果は5パーセント程度だし、効果が出るのは数ヵ月先の話だ。それ以外の手はないかな」