中国にはライバルがほとんど進出しない
加藤 私は、2011年に台湾で『愛国奴(あいこくど)』という本を出版しました。いわゆる「売国奴」とは異なり、知らぬ間にお国を売っていく人たちという意味です。中国でも出版したいと思っていましたが出せずに、結果、台湾で出版した経緯があります。
台湾で出版すると、その書籍は自然に香港にも流れるんですよ。近年、年間のべ約4000万人が中国から香港にやって来ますから、結果的に多くの中国人が拙書を目にすることになりました。「一国二制度」と言われる制度がありますが、中国の一見頑なで隙のない体制やシステムにも、いろいろな“隙間”があると感じています。
さて、ここで少しだけ話を変えさせてください。
6月9日(米東海岸時間)、アリババ創設者のジャック・マーさんが、ニューヨークの経済クラブで、約1200人の経済人・投資家の前で講演をしました。彼はこのように言いました。「今日の中国において、中産階級の人口は米国の総人口と同じくらいですが、これからの10年間で中国の中産階級は5億人増えます。彼らの良質な品質やサービスに対するニーズは非常に強大で、驚くべきものになるでしょう」と。
中国社会科学院が過去に発表した統計では、年収で6万元から50万元(約120万円〜1000万円)の人たちが中産階級に属し、その階級は人口の約35%を占めるとされます。マーさんは「アリババが米国にやってきたのは、ここの企業と競争するためではありません。アリババの次の戦略は、米国の中小企業が中国に進出するためのお手伝いをすること。中国の消費者に彼らの商品を売ってもらうための、プラットフォームを提供することです」とも言っていました。
ここで1つ教えてください。広く個人投資家といっても、長い目で見て軽視できないプレイヤーは、これから膨らんでいく中産階級ですよね。1人ひとりが持っている資産もさることながら、その規模自体にインパクトがある。彼らのような消費者が持つ潜在力について、松本さんはどのようにお考えですか。
松本 世界で成長しているのは中国だけです。うちはいま「グローバルビジョン」を掲げています。簡単に言うと、日米中で展開しているということです。世界12拠点があります。
われわれは、米国については成熟したマーケットだというイメージを持っています。技術もブランドも、すでにいろいろなものがある。日本については、証券ビジネス全体は成熟したマーケットです。ただ、当社はこれからアクティブトレーダースペースにも入っていくので、一応のスペースがある。ただし、それは巨大な成長ではありません。
そのなかで、中国はまさに成長市場です。お客さまやビジネスがかなりのスピードで増えています。実際のジョイント・ベンチャービジネスのなかでも、われわれ自身が驚く規模で物事が動いています。成長はそこにあると思います。
加藤 政府として解決策を出そうとしているとは思いますが、中国経済については、ネガティブな情報や現象も少なくありません。
社会面では、環境問題や社会保障の欠如などは改善が望まれる分野です。また政治面を見ても、少数民族の問題や言論の自由や法治の欠如といった政治体制の異質性に端を発する問題もあり、中国の現状や未来には常に不安定感や不透明感がついて回るように見えます。
こうしたチャイナ・リスクの一方で、チャイナ・アレルギーも蔓延していす。突発的な事件が起こると、「中国ではもうやっていけない」という反応も見られます。不透明感に加えて、「中国は社会主義の国であり、共産党が統治する国。われわれとは相容れない」という考え方を持つ日本のビジネスパーソンも多い。
最近、そもそも中国市場には入らない、あるいは撤退しようという動きが顕著になってきているように見えます。松本さんは、このような動きをどうとらえていますか。
松本 ラッキー(笑)。金融業界でもまさにそうで、ライバルがほとんどいないんですよ。中国に進出している日本企業を後方支援するビジネスはあっても、中国の個人を相手にしようという金融機関は、損保会社くらいしかないと思います。それはラッキーですよね、競争が減りますから。
私は商人です。一党独裁、社会主義、国内も分裂している、云々かんぬんと。まったくその通りだと思います。いままでもいろいろあったし、これからもいろいろあるでしょう。でも、まあいいじゃないですか。長い目で見れば、それでもマーケットはどんどん大きくなります。そこにどう付き合っていくかというだけの話なんですよ。
いろいろわからないこともリスクですが、そこに競争相手がいることもリスクです。中国では競争相手が少ないということは、その分のリスクが減るということです。
後編更新は8月21日(金)を予定。