米倉 本当にそのとおり。いまや渋滞の3割はソフトウェアで解消できる時代です。さらにGoogleが開発を進めている自動運転車が実用化されれば、車の移動精度が大幅に上がります。そうなれば、掘削に莫大な資金を投じている地下鉄を廃止して、バスを充実させたほうがよっぽど国の予算削減になる。そこで浮いた何千億という資金を教育に回すなど、有益な使い方ができます。新しいソフトウェアによって、いまあるハードウェアを最大限に使うことができるわけですね。

 また、Googleの自動運転車はぶつからないということですから、将来的には車の重装備も必要なくなり、1000ccでポルシェ並みの車ができるかもしれません。Googleがやっているのは、そういうことに対するチャレンジでもありますよね。一方、日本の自動車業界はまだハードウェアにこだわりすぎて、1トン近い鉄の塊を内燃機関を燃やして走っていた時代からそれほど進化していません。日本で「新しい車」という概念はどうして生まれないんでしょうね。やはりわれわれは本当に気合いを入れて、「日本は何で食っていくのか?」ということを考えないと。

森辺 それは先生がまさに専門にされているイノベーションの話で、世の中にある多くのものは発明されてからものすごく時間が経っているじゃないですか。最初の頃は、技術の力でハードウェアを極限まで磨いて成長させることをイノベーションと呼べたんだと思います。しかし数十年経ったいまでは、ハードウェアにこだわることよりも、その製品が社会そのものを変えるぐらい、もっと新しい世界を創造していかないとイノベーションとは呼べない。その意味では、かつてソニーが生み出したウォークマンは、ハードの先進性ではなく、「音楽を持ち歩く」というソフト、つまり発想のイノベーションだったと言えると思います。

米倉 そう、あれはまさにイノベーションで、とんでもないマーケットとハピネスを生み出しましたね。だけど、時代が流れてiPodが発売されると、次元が変わりました。ハードではなくソフト、さらにクラウドになっていますから。

森辺 エレクトロニクスの世界がハードからソフトに移行したのは、アナログからデジタルの時代に変わり、そしてICTの時代へと進化していったことが大きな理由です。ICTの時代になって、ハードは単なる受像機になってしまい、その受像機はもはやコモディティでしかなく、日本企業でなくとも、中国でも台湾でも韓国企業でも作ることができるようになってしまった。むしろ、彼らのほうが安く作ることができる。つまりは、メーカーにとっての価値の源泉が、「ハードを作る力」から、そのハードのなかで動く「ソフトウェアやコンテンツ」に移行してしまったということです。日本のエレクトロニクス業界がアジア新興国で失敗した要因は、まさにこの価値の源泉の移行を無視したことにありますね。

米倉 IoT(=Internet of Things)、つまりモノをインターネットにつなぐにはソフトが重要。ただし一方で、モノがなければつながらないというのも事実です。とはいえ、日本はモノで勝ってきたからこれで解決できる、と思い込んでいることが問題。モノだけじゃ通用しない世界では、利き手ではない左手をもっと鍛えなくてはならないわけです。そういう左手の使い方を知るためにもアフリカに行ってみるべきだし、もっと言えばアフリカだけが答えではないはず。世界中のマーケットを見てやろうという、貪欲さが大切です。

消費財業界におけるイノベーションとは?

森辺 エレクトロニクスだけでなく、食品や日用品系のメーカーでも、同じようにハード、つまりは製品にこだわっている企業がほとんどです。たとえば、シャンプー。シャンプーなんて、パッケージやラベルを剥がして白いボトルだけにしてしまうと、どの商品も同じ。もほとんど見分けがつかなくなってしまうものです。そうした消費財業界のイノベーションについては、先生はどのようにお考えですか?