様々な人たちが集まる理想の姿を描いた
「ホーム・スイートホーム」

 認知症をテーマにした小説の映画化ということで最も大きな影響を与えたのは有吉佐和子さん原作の「恍惚の人」だろう。森繁久弥さんが認知症高齢者を演じ、1973年に上映された。40年以上も前のことだ。歴史的限界もあり認知症への誤った判断を生みかねず、その「否定」になったのが後の映画や小説の歴史である。原作の問題点については前回の第37回で論じたので参照されたい。

 その約10年後の1985年には「花いちもんめ」が制作された。千秋実さんがアルツハイマー病になった元教授を、その息子の妻で介護者となるのは十朱幸代さん。

 2000年の介護保険スタート時には松山善三さんが原作の「ホーム・スイートホーム」が上映される。松山さんが一風変わった制作会社、シネマエンジェルと出会って公開に結びつけた。シネマエンジェルは、経営者団体の東京中小企業家同友会(加盟約2200社)が会員有志で立ち上げた。配給会社を通さずに、40万円で一日興行主を募る上映法だ。

 同社の三宅一男社長が「高齢者をテーマにした映画を作ろう」と強い思い入れがあった。認知症の父親に3年付き添った三宅さんは「同じように苦労している経営者は多い。我々は小さな会社だからすぐに事業に響く」と原作に共鳴したと言う。

 元オペラ歌手が認知症になり、周囲を右往左往させて、最後に認知症のグループホームに落ち着くという内容だ。ただ、制度上のグループホームは全員が認知症者だが、ここは4人の健常の女性たちと一緒に過ごす特異な形態。

 加えて、素人が簡単にグループホームを運営できると誤解されかねない場面もあり、グループホームの全国団体、全国痴呆性高齢者グループホーム連絡協議会(現・日本認知症グループホーム協会)が製作会社の後援依頼を断る「事件」が起きた。

 認知症高齢者の暮らしを考えると、松山さんの想定した「グループホーム」を制度外として簡単に切り捨てられない。というのも、私たちのあるべき理想の社会としてよく言われる「共生型」「共生社会」「ノーマライゼーション」というのは様々な人たちの集まりのことである。

「障害者と健常者の共生」という考え方は知られている。障害者を施設に閉じ込めないで、一般の地域社会の中で共に暮らそう、とする考えだ。認知症高齢者は、介護保険法によると自立者でなく要介護者。健常者ではなく、障害者の範疇に入る。

 デンマークで1982年に提唱された高齢者3原則のひとつに「従来の生活の継続性」がある。障害を持ったり、そのため要支援者となるのは普通の人間に起こることで、生活の中ではよくあること。従って、障害者や要支援者だけの生活はありえない。健常者だけの生活もあり得ないだろう。

 健常者に障害者、要介護者が混ざっているのが人間らしい普通の生活といえる。映画の中で集団生活を送る場所は、題名通り「スイートホーム」なのだろう。