経済危機によって、日本経済は大きな打撃を受けた。年金制度も、例外ではありえない。潜在的に言えば、年金制度が経済危機によって本質的な影響を受けたことは、否定できない。年金は長期的に安定的な制度であるべきなので、経済危機の影響を真剣に検討することは、たいへん重要だ。
ところが、年金制度は長期的な制度なので、問題が存在していても、すぐには顕在化しない。そのため、対応は遅れがちになる。しかし、遅れれば遅れるほど問題が進行するので、解決は難しくなる。とりわけ問題は、既裁定者が聖域化して手がつけられないことだ。これまでもそうであったが、年金制度を改革する場合、すでに受給している人たちの金額を削減することは、ほぼ不可能である。
年金制度が直面する最も深刻な危機は、支払い不能に陥ることだ。これまで年金について指摘されてきた問題は、不公平の問題が中心であった。制度間の格差、世代別の格差、世帯累計の違いによる格差などである。もちろんこれらは問題なのだが、支払い不能に陥ることとは、問題の深刻さが異なる。仮に年金が支払い不能に陥ったとしたら、借入れによっては対処できないだろう。なぜなら、返済できる可能性がないからだ。
したがって、年金制度の破綻は、事業の破綻とは性質が異なる。こうした事態に陥れば、絶体絶命の危機である。現在公表されている年金制度の見通しでは、そうした危機はありえないこととされているのだが、はたしてそう考えてよいのだろうか。
年金の財政収支状況は、「平成16年年金改正制度に基づく財政見通し等」として公表されている。詳細な解説は、「厚生年金・国民年金 平成16年財政再計算結果」にある。
厚生年金について見れば、保険料率が2017年の18.3%にまで徐々に引き上げられてゆくという前提の下で、2050年まで収支は黒字で、積立金が積み上がるものとされている。最終的な所得代替率は、2023年度において50.2%だ。これで見る限り、日本の年金制度は磐石であるように見える。
この計算は、2005年に行なわれたものである。その後、財政検証が行なわれ、その結果が2006年1月12日に公表されている。さらに、2009年2月に財政検証の結果が公表されている。
運用利回りの低下
2009年の財政検証において、経済危機の影響がどの程度正確に反映されているかは、はっきりしない。ただし、以下に述べるように、適切に考慮されていない可能性が強い。
第一の明白な問題は、積立金運用利回りの見通しである。2004年の見通しにおいては、運用利回りとして3.2%が仮定されていたが、今回は引き上げられて4.1%とされた。