ベートーヴェン中期の最高傑作の1つが「弦楽四重奏曲・作品59」(写真はアルバン・ベルグ・クァルテット盤)。ウィーン在住のロシア大使だったラズモフスキー伯爵の依頼で作曲された経緯から、ラズモフスキー・セットと呼ばれています。そのラズモフスキー1番に“エリナー・リグビー”の原型があります。第1楽章冒頭や第2楽章のリズムの刻みかたは20世紀の8ビートに通じる躍動感です。それまでのハイドン、モーツァルト的な弦楽四重奏には全く見られない革命が此処にあります。その革命的な響きが160年の時を越えてビートルズに結実しています。

 ポールに憧れた無数の若者の一人にビリー・ジョエルがいました。そのジョエルもまたベートーヴェンの薫陶を受けています。「イノセント・マン」収録の“今夜はフォーエヴァー”には、ベートーヴェンが書いた最も魅惑的な旋律の1つが使われています。1798年に作曲されたピアノソナタ第8番「悲愴」(写真はホロヴィッツ盤)の第2楽章です。

「悲愴」にインスピレーションを得た現代の音楽家は他にも多数います。現代最高峰の ジャズピアニスト上原ひろみも2011年のアルバム「ヴォイス」(写真)で第2楽章を取り上げています。最初の4小節はベートーヴェンに敬意を表し原曲通りですが5小節目からジャズの和音が登場し、ひろみ率いるトリオが原曲を解体し再生します。が、根底に響くのはまぎれもないベートーヴェン。無名のベートーヴェンがウィーンで名を挙げ始めた頃を彷彿とさせます。

 最後に、ピアノソナタ「悲愴」第1楽章です。ここには、8ビートのロック的旋律とリズムが響いています。それを証明するのがルネッサンスの同名デビュー盤(写真。このルネッサンスという楽団は、ジェフ・ベック、エリック・クラプトン、ジミー・ペイジがかつて参加したヤードバーズが解散して生まれた英国の楽団)に収録の“アイランド”です。この曲の3分59秒から始まるピアノは大変興味深いです。ピアノは基本的に原曲通りですが、そこにドラム、ベース、ギターが伴奏に加わると、ロックになっているのです。ベートーヴェンこそ元祖メロディーメイカーと言えるでしょう。