日本では毎年、多くの犬や猫が殺処分されている。野良犬や野良猫が捕獲され、愛護センターに持ち込まれたりするものだ。その中から可能な限り引き取って里親を探す保護団体「ちばわん」や、東日本大震災で被災地に残された犬猫1400頭を救った団体「犬猫みなしご救援隊」の活動を取材するドキュメンタリーに、その取材者を主人公にしたドラマを融合した新しいタイプの映画『犬に名前をつける日』(10月31日からシネスイッチ銀座など全国で順次上映)。山田あかね監督に映画制作の経緯や意図を聞きました。(聞き手/「ダイヤモンドQ」編集委員・大坪 亮)
小林聡美さんと出会ったことで
新しいタイプの映画ができた
――映画『犬に名前をつける日』の特設ウェブサイトで、社会学者の上野千鶴子さんが「ハンカチを用意して見たほうがよい」とコメントされていますが、実際、見ていて、何度も泣きました。いい話でも、悲しい話でも。いい話では、東日本大震災で被災されたおじいちゃんと、飼い犬“チビ”が再会するシーン。避難生活で犬が飼えないおじいちゃんのために、「犬猫みなしご救援隊」の代表、中谷百里さんがバスでチビを連れていくシーン。おじいちゃんの嬉しそうなこと。そして、チビも狂喜乱舞していました。
2011年の震災から4年。離ればなれに暮らしているのですが、3カ月に1度くらいのペースで、中谷さんがおじいちゃんの住居に連れていってあげているんです。おじいちゃんは体の調子が悪くて、酸素ボンベを常時携帯していますが、チビが来ると、あんな感じで元気になるんですって。チビも、覚えていて、おじいちゃんに会うと、喜びを全身で表現するんですね。おじいちゃんもチビも、演技ではなく、ありのままだから、いいシーンになったのでしょうね。
当初は、作品の中で使う予定ではなかったのです。ドキュメンタリーの形で、中谷さんの活動・行動を追っていて、ずっとカメラを回して撮り続けている中で、ああいうシーンになりました。ドキュメンタリーだから撮れたシーンといえるかもしれませんね。
――映画の中で、愛犬を亡くして落ち込む主人公(小林聡美さん)を、元夫役(上川隆也さん)がいたわって語る、「犬は、悲しいことが続いても、飼い主に会えると、その喜びがそれまでの辛さを帳消しにしてくれると聞いたよ」というような言葉を、そのまま表現するシーンでした。
この言葉は、上川さんご自身の体験に基づくものなんです。映画の状況設定を上川さんに伝えたら、彼がこういう話をされたんです。この状況の二人の間の言葉としてとてもいいなと思ったので、使わせてもらいました。小林さんは撮影する瞬間まで、そのことを知らず、その場で感じた表情とリアクションになりました。犬が大好きなお二人だからこそ実現できた掛け合いだったんです。
――主人公の置かれた状況や行動は、監督ご自身の体験だったということですね。
長く飼っていて、大好きだったゴールデンレトリーバーが重い病気にかかってしまったんです。なんとしても助けたいと思い、手術したり、病院を転々としたりしました。自分なら助けられると慢心して、犬に辛い思いをさせました。犬のためと言いながら、自分のためにやっていたんです。
亡くなってから、そのことに気が付き、自己嫌悪に陥りました。5年前のことです。映画やテレビなどの仕事をする気が全然起きなくなりました。くよくよする中で、「犬の命を助けられる人になれないだろうか」と思い、ゴールデンレトリーバーのルーツを探りにイギリスに行き、保護施設や動物病院を訪ね歩きました。
帰国後、映画監督で先輩の渋谷昶子さんに話をしたら、「そこまでやるんだったら、映画にすべきではないの?何のために映像の仕事をしてきたの?」と言われ、叱咤激励されました。それから4年間、日本の犬の置かれた状況を取材してきました。
――その取材の記録を、“ドキュメンタリードラマ”という新しい形にしようと考えたのは、なぜですか?
始めは一般的なドキュメンタリー映画にする予定だったのですが、撮りためた映像で作ったテレビ番組「むっちゃんの幸せ」(NHK放映)で、ナレーションをやってくださった小林聡美さんと出会ったことで、ドキュメンタリーとドラマを融合した作品にすることを思いつきました。
主人公を小林さんに演じてもらうことで、親しみをもって、たくさんの人に見てもらえると思いました。そして、取材する側の心情もリアルに描くことができたと思っています。