八木 生前、それでも生活に困るようなことはなかったから、奥さんもあまり気にしなかったわけですね。

児島 そして、ご自身は、数千万円ほどのへそくりを貯めていた(笑)。ただ、これは明らかに名義預金(*)ですから、相続財産にカウントされます。そんなのも含めた数億円の遺産に、ほぼそのまま相続税がかかることになってしまいました。

八木 この方の場合、どんな相続対策が考えられたのでしょう?

児島 農地以外の土地もお持ちでしたから、借入をしてそこに賃貸マンションなどを建てて運用するのが、最も効果的でした。そうすれば、土地自体の評価を下げることができますし、借入金は相続財産から差し引くことができます。

 当然、金融機関より相続対策をしたらどうかという勧誘があったはずですが、頑としてやりませんでした。要は、借金が嫌だったんです。「借金をしてはいけない」という教育を受けた世代の思想が残っているのかもしれません。特に高齢の農家さんにはよくあるケースなんです。

まずは、「自分で考えて」ほしい

八木 「わざわざ相続対策をするのはちょっと……」という気持ちも分かるのですが、それでは相続人が困ってしまうこともあります。

児島 これもケースバイケースなんですけど、こういう場合に、われわれ税理士が「相続対策の一環として借入金でマンションを建てましょう」とは、提案しにくいのです。相手によっては、「児島さん、そんなこと言うのは、特別な意図があるからじゃないの?」ってなりかねませんから(笑)。

八木 あくまでも、顧客の意志が大事だということですね。

児島 これは農家に限った話ではないのですが、やはり、それなりの資産をお持ちの方がある程度の年齢になったら、相続について真剣に考えてもらいたいですね。税金がいくらくらいになるのかのシミュレーションくらいは、しておくべきではないかと思うのです。そうしたことも含めて、「相続対策を」という依頼があれば、われわれには、全力でそれをサポートする準備があります。

*名義預金 例えば、通帳の名義は妻や子供のものになっていたとしても、実質的な所有者は被相続人である夫のものだ、とみなされる預金のこと。