「脱原発」を堂々と表明する
“変わった”金融機関トップ

広瀬 その後、静岡県にある浜岡原発の廃炉訴訟にも参加されたそうですが、あれはどういうキッカケだったのですか?

吉原 浜岡原発廃炉訴訟の弁護団長を務める河合弘之弁護士から、
「厳正な裁判を行うために、ぜひ原告として参加してもらいたい」
 と依頼を受けました。

 金融機関のトップとして、そこまでやるべきかと迷いましたが、浜岡原発は福島原発より関東圏の近くにあります。事故があれば、うちの営業エリアである東京と神奈川がやられます。直下には東海大地震の震源断層もありますし、出力も大きく危険性も高い。
「困っている人がいるなら助けるべきだ。何も逃げることはない」と考えて、原告団に参加することを決めました。

広瀬 運動に参加してくださることは、私たちの仲間にとって大いなる励ましでした。

吉岡 その後、2011年6月ごろになると、一部のマスコミからも取材の要請がくるようになりました。
 現場の記者は原発反対の記事を書きたいけれど、会社の方針でそれは難しい。でも、原発反対を表明している「変わった金融機関のトップ」のインタビューであれば、これを批判する形で取り上げることができるという苦肉の策でした。
 私は「変わりもの」役を引き受けて、新聞、雑誌、テレビで原発反対を訴えました。

広瀬 吉原さんが声をあげてくれたおかげで、勇気を与えられた仲間がたくさんいました。初めてこの問題に関心を持って、新たに活動を始めた人もいます。

吉岡 同じ金融業界内でも、「本当にいいことをやっていると思う」と多くの方に声をかけてもらいました。
 あの人たちも、やむにやまれぬ事情から積極的に声をあげないだけで、心のなかでは賛成している人たちがたくさんいたのですね。
 住友銀行や三井住友銀行で頭取を務めた“ラストバンカー”の西川善文氏はご自身のブログで、

金融機関がここまでは働きかけるのは異例である。城南信用金庫のこの英断は、原発依存から脱却するため再生可能な代替エネルギーへシフトする意識の大転換に貢献すると評価される。国として脱原発に取り組むのであれば、こうした動きが大銀行をはじめ全金融機関に波及することを期待する

 と高く評価していただきました。

広瀬 西川さんはハートがあったからそう発言しましたが、その後、彼は銀行の内部で、大変だったのではないでしょうか?

吉原 その後で、現役の経営陣から寄ってたかって叩かれたと聞きました。
後輩たちから「余計なことを言わないでください。困るじゃないですか」と。
 事故を起こした東京電力が救済された経過を見てもわかるように、三井住友銀行が原発に多額の金を貸していますからね。ハートがある人がいても、社内で足を引っ張る人がいっぱいいる。

 なぜかというと、目先の金儲けを最優先するからです。
 なぜそうするかというと、会社は「自分の目先の利益」を最優先させるべきだと思っているからです。そうすると、金儲けに少しでも差し障りがあるようなことは言わないし、やらない。事なかれ主義が正しいと思っているのですでも、私はそう思いません。
 会社は世の中に貢献するためにあると思っています。

広瀬 私は吉原さんを知るまでは、信用金庫と銀行の違いを知りませんでした。それで、世の中のために活動する城南信用金庫に貯金を移そうと、みんなに呼びかけました。
 吉原さんの素晴らしいところは、金儲けのためじゃないと言いながら、きちんと城南信用金庫の経営を成り立たせてきたところです。そこが最大のポイントです。

 次回は、今でも多くの人が誤解している、原発が止まると電力不足になるという迷信と、「脱原発」に向け、城南信用金庫内での徹底節電キャンペーンの具体的な行動について、お話しいただければと思います。

「変人」小泉純一郎もたまげた!<br />ほんとうの“ラストバンカー”の志<br />――吉原毅×広瀬隆対談【パート1】

(つづく)