ドラッカーに読ませたい!
ドラッカーさえ見つけられなかった言葉
上田 それにしても、この本はドラッカーに読ませたい小説ですよ。すごいと思います。だって、「人間とは何ぞや」というところからスタートしているんですから。人間が幸せになるためにどうあるべきか、幸せを超えたものをどうやって手に入れるか。「人間とは、幸せでは満足できない存在だ」という真宗の高僧の言葉がありますけど、それはドラッカーの考えでもあるんです。ドラッカーが求めるものは、とても崇高でありつつ、当たり前と言えば当たり前のものだった。
岩崎 それは共感します。僕も本を書いていて、アイデアが出ない、うまく進まないと、つらくて苦しいんですが、ただその苦しさは自分で選んで経験していることなんです。その意味で、僕は幸せでは満足できないから、この苦しさを選んでるんだなと。苦しさを選んだ中に、充実感がある。苦しいことに生きているという実感を選んでいるんだなと思いました。
これが、人から与えられた苦しさだとまた違いますが、自分で苦しみを選べる社会になる、そういうマネジメントができることが、幸せな社会の答えのひとつかもしれません。
上田 岩崎さんが今回の本のテーマにイノベーションを選んだことは、すごいスピードで変化する今の世の中において、秩序のようなものを見つけ出すためにも、世の中を良くしていくための方法論を示すためにも、とても重要なことだと思います。だから読んだときに、意外というよりは「なるほどこう来たか!」とひざを打ちました。発明にも方法があるのだと。
岩崎 ありがとうございます。米国の経済学者がいうような、富める者が富めば、貧しい者にも自然に富が滴り落ちるというトリクルダウン理論や、高い身分にはそれだけ高い義務が伴うというノブレス・オブリージュでは、一向に解決してこなかった問題、あるいは経済でも精神修養でも宗教でも解決できなかった問題を解決する、もっと普遍的な方法が必要なのではないかとドラッカーは考えていたと思います。
それこそが、一人一人が生きる「居場所」を見つけることなんだと思って、この本を書きました。世の中で「においがいい人」というのは、競争せずに一生懸命新しい居場所を作っている。「においがいい人」をたどっていくと、競争も争いもせずに、新しい居場所を作っている。
上田 ドラッカーはね、きっと不満だったと思います。「経済人が終わった」と言ったころから、60年も70年も社会の救済の役に立とうと活動していたけれど、世の中は何も変わらなかった。でも、もしかしたら、それは求めるべき「居場所」という言葉にたどり着けていなかったからなのかもしれない。そういう意味で、岩崎さんの本はドラッカーにとっては、かゆいところに手が届くような……岩崎さんが孫の手になって、届くようにしてあげた本なのかもしれないと思う。
岩崎 「居場所」が、ドラッカーが見つけられなかった言葉ですか……。
上田 そう、岩崎さんは、すごいことをしたんですよ! 嫌なにおいのない、上下関係でもなく、個としての人間のあり方を追求していくと、みんなが求めているのは「居場所」なんだと思います。