さきほども述べたとおり、決断自体は自由度が少ないので、普通の人は磨きようがないと言えます。一方で、意思決定力は鍛えることができます。意思決定力というのは、決断に至る前のプロセスまで含めた包括的な作業を指します(図3)。

課題設定から決断までのプロセスを「意思決定」という

意思決定というのは、「やり直しのきかない経営資源配分を実行することへのコミットメント」だと私は定義しています。これは、師であるスタンフォード大学のロナルド・ハワード教授の定義に則っています。

 ピンとこない方もいるかもしれませんが、第1のポイントは、経営資源配分が必ず伴うという点です。そして第2のポイントは、“コミットメント”である点。つまり、できるのは「自分がコントロールできる経営資源とそれを用いたアクションだけ」ということです。

 したがって、顧客に強制的に自社の製品やサービスを買わせることができない以上、売上や利益については原理的に意思決定できないのです。ところが実際には、企業が中期計画をたてる際などに、必要な経営資源を十分検討することもなく、売上目標と利益目標だけお題目として出てくるなんてことが往々にしてあります。こういう場合、意思決定と実行がうまくつながらない不幸な結果を生みます。自分たちが何を具体的に行うのか、そのためにどれだけの経営資源が必要なのかを、ぬるーくしか考えていないからです。

 具体的に、誰がどんな資源をどれくらい使ってどういうふうに動いて…するとお客様がどう反応して…競合の動きも視野に入れると自分たちのシェアをどのぐらい伸ばすことができそうか、したがって売上がこのぐらい上がって…というふうに、意思決定プロセスの中でバーチャルに実行してコミットできる内容に固めておかなければいけません。また、このプロセスにおいては極めて自然に解が出てくるので、特段の決断力も必要ありません。

日本企業で意思決定が遅れがちなのはなぜ?

 ちなみに、日本企業は事業売却や人員削減などについて、意思決定が遅れがちだと言われますが、なぜでしょうか。ひとつ考えられるのは、課題のリストとそれぞれの課題のデッドラインについて常時、意識されていないためです。これを日ごろからやっていないと、急に決断を迫られて躊躇してしまい、意思決定が遅れることになります。

 逆に、課題やそのデッドラインをまったく認識していないというケースは少ないというのが現実かもしれません。みんな何となく、うっすら気づいている。意思決定に至るかどうかは、トップの責任感やパッションがどれだけあるか、と直結しているのではないでしょうか。自分の在任期間中だけ何とかしのげればいい、といった「逃げ切る気」のない真剣なトップと30〜40代のミドル層は意識が一致しますから、この二つの層に当事者意識が強いと改革が進みやすいといえるでしょう。(もちろん基本的には、全ての層で「逃げ切る気」などあってはならないのですが。)