パッションを持つことが考える習慣につながる

 では、よりよい意思決定がくだせるように、日ごろからできる訓練はあるのでしょうか。考える習慣を身につけるためには、このインタビューでも何度か繰り返していますが、まずはパッションをもつことが大事だと思います。よりより生活や、よりよい人生、よりよい組織、よりよい会社、よりよいコミュニティ、よりよい社会にしたいというパッションを持っていると、おのずと取り組むべき課題がみえてくるからです。

「パッションが弱いと、ぼんやりした抽象的な答えしか出てこない」と籠屋邦夫さん

 冒頭、ロジカルシンキングで解ける場合であっても使いこなせていない例は多い、と言いました。理由はいろいろ考えられますが、ひとつはこれもパッションがないときです。なんとかしたい、というパッションが弱いと、一応はロジカルシンキングのフレームワークを使っても、ぼんやりした抽象的な答えしか出てきません。

 たとえば、ある日本メーカーの事業について考えてみましょう。かつてはグローバル1位だったけれども、韓国勢や中国勢の追い上げで、今や世界5位ぐらいに転落しているとします。国内でも3位ぐらいに低迷している。ここ数年は、売上はもちろん利益もマイナスになっていて、これをなんとかしたいという状況です。

 抽象的なあるべき姿は、再びグローバル1位に返り咲いて、利益もバンバン出る状態ですよね。すると、グローバルな各市場の伸びや利益率の増減に着目して、この地域とこの地域の製造・販売・技術のトータルの機能強化が必要、という話まではロジカルシンキング的な分析で出てきます。ただし、現状のキャッシュフロー状況から、設備投資をするのは難しい。製造は競争力の源泉でもないので、外注して、開発・営業を強化するという方向が見い出されます。あとは、それによって、売上と利益目標がバーンっと達成されるはず、というほとんど願望だけの数値が打ち出されて終わり。

 確かに、生き残るために普通に単にロジカルに考えるとこういう方向になるのは分かるのですが、具体的にどのように強化し頑張ってこの目標までもっていくのか。いまグローバルに低迷している事業がその方法で本当に勝てるのか…。

 もっとパッションがあれば、通り一遍のロジカルシンキングによる打ち手の方向にとどまらず、もっと具体的な解が見い出せるはずです。たとえば、この地域で新たに生まれつつある〇〇という顧客トレンドをとらえて、自社の□□という技術・スキルを生かした◇◇という攻め方で行けば、これから大きく伸びが期待できるセグメントの顧客に大いに喜んでもらえ、かつ△△を継続的に強化していけば競合にも勝ち続けられる…など。

残念ながら、それでも勝ち目のある方策が見い出せなければ、撤退して他の事業に集中するという選択肢もあるはずです。でも、中期計画に撤退という絵は描けないからという内向きな理由で意図的に外されていたりする。その地域を強化するにしろ、事業ごと撤退するにしろ、パッションがあればそれを具体的に実現する策がどんどん出てくるはずです。結局、真に企画者の腹に落ちていないような計画は実行に移しても絶対に頓挫します。