よいリーダーの条件は、部下に効果的に働いてもらうこと
本を読んだりセミナーで聴いたりする「べき」の中には、そもそも相反するメッセージを含んだものもあります。それらを鵜呑みにすると、自分の姿勢を定められずに混乱し消耗する、ということにもなります。
「何をやったらよいかわからないから何もしない」という人は思ったよりも少なくて、あれもやってみる、これもやってみる、でもいずれもぱっとしない、ああ自分はだめだと思って、今度はそれをやってみる、というパターンで燃え尽きてしまう人が多いようです。
ここで改めて原点に立ち返って考えてみましょう。
私は、「よいリーダー」というのは、「部下に効果的に働いてもらえる」リーダーのことだと思っています。ですから、リーダー像を考える上でも、その本質は対人関係にある、というのが私の持論です。
また、疲れ果てているのは、リーダーだけではありません。
リーダーのせいで疲れ果てている人(部下)も、世の中には大勢います。
最も典型的なのは「パワーハラスメント(パワハラ)」を受けている人たちです。リーダーが、自分の持っている権力を乱用して、部下を虐待するものです。
パワハラとまではいかなくても、不規則な(気まぐれで、予測不可能な)上司や曖昧な上司に振り回されて、疲れてしまっている人も少なくありません。
その一部には、「よいリーダー」になりたくて、いろいろな啓発本を読んだりセミナーに参加したりした結果、相反する「べき」を身につけてしまい、それを部下に押しつけて巻き込んでいる上司もいるでしょう。
もともと悪気もなく(むしろ部下のためによいリーダーになろうとして)頑張った結果が部下のストレスになるのであれば、どちらも報われません。
多くの人にとって、職場で過ごす時間は30年、40年ととても長いわけですから、職場環境がよくなれば、その分人生の質も高まります。管理職やリーダーには、働きやすい職場環境をつくる権限が与えられているのだと前向きにとらえましょう。
ストレスチェックが義務化された
2015年12月1日に改正労働安全衛生法が施行されました。50人以上の従業員がいる事業所では、医師や保健師などによる社員のストレスチェックが義務化されました。
ストレスチェックを実施した場合は、事業者は検査結果を通知された労働者の希望に応じて、医師による面接指導を実施し、その結果、医師の意見を聴いたうえで必要な場合には、作業の転換、労働時間の短縮等の適切な就業上の措置を講じなければならないとしています。
この法律がきっかけとなって職場のメンタルヘルスの問題に、もっと理解が深まることを期待しています。法改正がされたわけですから、部下や職場のメンタルヘルスの把握は、経営者や管理職、リーダーの義務ということになります。
精神科医
1968年東京生まれ。慶應義塾大学医学部卒業、同大学院修了(医学博士)。
摂食障害、気分障害、トラウマ関連障害、思春期前後の問題や家族の病理、漢方医学などが専門。
「対人関係療法」の日本における第一人者。
慶應義塾大学医学部精神科勤務を経て、現在、対人関係療法専門クリニック院長、慶應義塾大学医学部非常勤講師(精神神 経科)、国際対人関係療法学会理事、アティテューディナル・ヒーリング・ジャパン(AHJ)代表、対人関係療法研究会代表世話人。
2000年~2005年 衆議院議員として児童虐待防止法の抜本的改正をはじめ、数々の法案の修正実現に尽力。精神科専門医、精神科指導医(日本精 神神経学会)、精神保健指定医、日本認知療法学会幹事、日本うつ病学会評議員、日本摂食障害学会評議員、日本ストレス学会評議員。心の健康のための講演や執筆も多くこなしている。
主な著書に『女子の人間関係』(サンクチュアリ出版)、『怒りがスーッと消える本』『小さなことに左右 されない「本当の自信」を手に入れる9つのステップ』『身近な人の「攻撃」がスーッとなくなる本』『大人のための「困った感情」のトリセツ』(以上、大和 出版)、『十代のうちに知っておきたい?折れない心の作り方』(紀伊国屋書店)、『プレッシャーに負けない方法―「できるだけ完璧主義」のすすめ』(さくら舎)など、多数。
※次回は、12月4日(金)に掲載します。