すると、それを聞いた洋子が、しばらく考えた後にこう答えた。
「……分かったよ。これが『マネジメントを学ぶ』ということなんだね」
「ん? どういうこと?」と尋ねた公平に対し、洋子はふいに不敵な笑みを浮かべるとこう言った。
「マネジメントは、生半可な気持ちじゃできない──ってことです。それがよく分かりました。もちろん、それを学ぶことの大変さは覚悟していたつもりだったけど、まさかここまでとは思わなかった」
 それから、一呼吸を置くとさらに続けた。
「マネジメントを学んでいると、私、胸の辺りがざわざわしてくるの。すっごく不安を覚える。動悸が速くなって、冷や汗が出てくる──」
 そこでもう一度区切ると、さらにこう続けた。
「でも、それがすごく楽しい! わくわくする! 私、こういうのを求めていたの!」
 すると、それに五月が応えた。
「あ、ずるい! 一人だけ青春を味わって」
 それで、一同は笑いに包まれた。
 ただ、その中で一人、夢だけは笑っていなかった。夢だけは、不安に胸が締めつけられそうになっていた。
 野球部のマネージャーになると言ったとき、最初は軽い気持ちでしかなかった。それこそ、ボールを磨いたり、用具を片付けたりといった、これまでのマネージャー像を想像していた。せいぜい『もしドラ』のように、野球部の経営の手伝いをするくらいだろうと。
 ところが、この野球部では、選手ではなくマネージャーが主役だという。そうして、たとえ周囲から頭がおかしいと思われても、それがイノベーションの機会であれば、真剣に取り組まなければならないという。
 夢は、そこまでする意味というのが、正直よく分からなかった。今のままで十分楽しいし、満足ではないか。
 夢は、真実と楽しく過ごせればそれで良かった。それ以上は何も望んでいなかった。だから、変化を望む気持ちにはどうしてもなれなかった。
 ただ、肝心の真実が変化を望んでいた。夢は、それには素直に従いたかった。
 その背反する気持ちが、夢の心を引き裂くような格好となっていたのだ。それで、大きな不安を感じていたのである。
 しかし、このことは誰にも言えなかった。そんなことを言ったら、せっかくの盛り上がった雰囲気に水を差してしまうと思ったからだ。
 そのため、そうした不安は夢の胸の奥深くにしまい込まれた。しかしそれが、彼女の不安をより一層かき立てることともなったのだ。