部下が自分に期待している役割も知ろう

 自分が相手に期待している役割があるように、相手もこちらに対して期待している役割があります。

 もちろん、大雑把に言えば「よいリーダーでいてほしい」なのでしょうが、日常の細かい場面では、もっと具体的な期待を知る必要があります。

 相手が自分に期待している役割については、実は、案外勘違いしていることが多いものです。

「毅然としていないと、よいリーダーだと思ってもらえない」と、細かな説明を避けて無表情でいるとき、部下は「事情さえ説明してくれればもっと協力できるのに」と思っているかもしれません。

 あるいは、何らかの危機に見舞われたとき、リーダーが「部下を動揺させるのはよくない」と勝手に思い込み、情報を小出しにすることが、いちいち部下に衝撃を与え、「まだ何か隠しているのではないか」という部下の警戒心や不信感を招くこともあります。

 この例では、部下は「自分たちの職場のことなのだから、本当のことを全部教えてほしい」「嫌な話は一回ですませてほしい」などの期待をしているということになります。

 このようなずれがなぜ起こるのかというと、基本的には思い込みによるものです。

 相手が何を期待しているのかを、自分のジャッジメントに基づいて決めている、とも言えます。

 ですから、これも「怖れのリーダー」の姿なのです。「毅然としたリーダーだと思われなかったらどうしよう」「危機を伝えたとき、皆のパニックに応えられなかったらどうしよう」というような怖れに基づいて、自らの役割を決めているようなものなのです。

 でも、実際に相手はどう思っているのか? ということを確認してみるリーダーは、決して多くないのではないでしょうか。

 そして、本来期待されていない方向にエネルギーを使ってしまい、消耗したり信頼感を減じたりしてしまうこともあるかと思います。

 何かがうまくいっていないと感じるときは、自分が何を期待されているのか、相手に聴いてみると役立つことが多いものです。

水島広子(みずしま・ひろこ)
精神科医
1968年東京生まれ。慶應義塾大学医学部卒業、同大学院修了(医学博士)。
摂食障害、気分障害、トラウマ関連障害、思春期前後の問題や家族の病理、漢方医学などが専門。
「対人関係療法」の日本における第一人者。
慶應義塾大学医学部精神科勤務を経て、現在、対人関係療法専門クリニック院長、慶應義塾大学医学部非常勤講師(精神神経科)、国際対人関係療法学会理事、アティテューディナル・ヒーリング・ジャパン(AHJ)代表、対人関係療法研究会代表世話人。
2000年~2005年 衆議院議員として児童虐待防止法の抜本的改正をはじめ、数々の法案の修正実現に尽力。精神科専門医、精神科指導医(日本精神神経学会)、精神保健指定医、日本認知療法学会幹事、日本うつ病学会評議員、日本摂食障害学会評議員、日本ストレス学会評議員。心の健康のための講演や執筆も多くこなしている。
主な著書に『女子の人間関係』(サンクチュアリ出版)、『怒りがスーッと消える本』『小さなことに左右されない「本当の自信」を手に入れる9つのステップ』『身近な人の「攻撃」がスーッとなくなる本』『大人のための「困った感情」のトリセツ』(以上、大和出版)、『十代のうちに知っておきたい?折れない心の作り方』(紀伊国屋書店)、『プレッシャーに負けない方法―「できるだけ完璧主義」のすすめ』(さくら舎)など、多数。

※次回は、12月11日(金)に掲載します。