「才能あるがゆえに、妬まれ、怖れられる」。突出した才を持ちながらも、「外様」ゆえの配慮を欠かさなかった、『三國志』の名軍師、賈詡。その処世術の真骨頂とは?世界史5000年の歴史から生まれた「15の成功法則」を記した『最強の成功哲学書 世界史』から見ていきましょう。

優秀なれど、
「外様」ゆえの配慮を欠かさない

前回は、『三國志』の名軍師、賈詡(かく)の「才あるがゆえに、才をひけらかさない」について見てきました。さて本日は、かつての宿敵、曹操(そうそう)の配下になってからのエピソードです。

 曹操の軍門に下ると、曹操は賈詡の才に惚れ込み、自らの参謀として迎え入れます。とはいえ賈詡は、曹操家臣団の中では何の地盤もない「外様」です。しかも、彼がまだ張繍(ちょうしゅう)の参謀だったころ、曹昂(そうこう)と曹安民(そうあんみん)という、曹操の身内を討ち取っていましたから、家臣団の中からも白眼視され、たいへん肩身が狭いものでした。

 ここでふつうなら、なんとか自分の地位を確立すべく、積極的に自分を売り込んで手柄を立てようと躍起になるものですが、賈詡はあくまで控えめ。曹操から下問されない限り答えませんし、答えるときも細心の注意を払って言葉を選びます。

「才能あるがゆえに、妬まれ、怖れられる」。どうやって才覚を発揮していけばいいのか?

 こうした細心の配慮があってこそ、賈詡は20年にわたって曹操に仕えることができたのです。

 曹操の幕下には、賈詡と対照的な人物、楊脩(ようしゅう)という人物がいました。彼もまた才に恵まれていましたが、それを隠そうとしません。あるとき、漢中を攻めあぐねていた曹操が「継戦か、撤退か」で悩んでいました。食事中も考え、鶏肉をつつきながら、ぽろっと口にします。

「鶏肋か……」

 ふつうなら聞き流すこの言葉を耳にした楊脩はただちに「丞相は撤退を考えておられる」と部下に告げ、早々に撤退の準備をさせます。部下が不審に思ってその理由を尋ねると、

“鶏肋は、骨と骨の間にまだ肉が残っていて惜しい気もするが、食べにくい割には身が少なく、ちまちま食べてみたところで腹がふくれるわけではない。漢中も、このまま諦めるのは惜しい気がするが、かといって苦労して取るに値する豊かな土地でもない、とお考えなのだ。”と答えます。

撤退命令を出す前から、すでに撤退準備を始めていたことをあとから知った曹操はたいそう不機嫌になります。

「楊脩め、いちいちわしの心を先読みしおって!」

 こうしたことの積み重ねから、やがて曹操から疎まれるようになり、ついには処刑されてしまいます。