ムーギー・キム氏の講評:
データ分析に基づく一般論ではなく、多様な実例に基づく具体論

 さて、今回は『一流の育て方』から「親の言行一致」がいかに大切か、いかにそれによって子どもが影響を受けるかを書いてきたが、実はグローバル・ビジネスの現場でも、社員を伸ばすために大切なのは上司の言行一致である。

 仮に上司が立派なアドバイスをしても、その人自身がそれをできていなければまったくもって言葉に説得力はない。人を育てる基本は「自分が人の見本になれているかどうか」であり、自分が実行できないことを子どもや部下に求めるのは、二流の上司かつ二流の親といえる。

 本コラムの冒頭でも述べたが、言行不一致で社会のために何もできていない議員が「先生」と呼ばれる資格はないのと同じく、子どもや部下の手本になれていない親や上司は、人を育てるといったおこがましいことを言う前に、自分自身を育てなければならないのだ。

『一流の育て方』では、前回・今回の抜粋版で紹介したように、各トピックに関して優秀ないわゆるエリート家庭で、どのような家庭教育方針だったのか、非常に多数の生の声を論理的・構造的にまとめている。

 本書の特徴は、データを分析して抽象的な一般論を実証するのではなく、極めて多様な具体論を議論することに重きを置いていることだ。

 よって「学術的な一般論」を好む方は読んではいけない(もちろん、実証分析の対象になる仮説のヒントは豊富に提供されているが)。
 これに対し、「優秀な家庭の子育てはどのような特徴があるのか」という問いに対して多様な具体論を包括的に知り、かつそれらがどのように「ビジネス現場の人の育て方に共通しているのか」を知りたい方には、これまでにない、格好の材料を提供することであろう。

 これらの豊富な具体論からどれを選ぶのか、それはご自身の個性とお子さんの個性を一番わかっている自分自身の責任であることはいうまでもない。

 最後に強調するが、あらゆる分析は、読み手のリテラシーが問われる。データ分析で実証できるのはサンプル全体の平均的傾向であり、これら分析結果をマクロの政策に当てはめるのは構わないが、個別の家庭に当てはめることは的外れである。

 本書はビジネス書の書評で知られるメルマガ「ビジネスブックマラソン」で「興味深い教育の視点がたくさん詰まった一冊」「じつに勉強になりました」と取り上げていただき、中室牧子氏の『「学力」の経済学』と共に読むことが推奨されている。

「多様な個別具体論」の本書と、「マクロ傾向をデータで語る一般論」の名著である『「学力」の経済学』の組み合わせは、人の育て方をより立体的に考えるうえでよい補完関係にあるといえよう。前者で多様な個別的具体論を学び、後者で全体的な一般論を知れるからだ。

『一流の育て方』は、『「学力」の経済学』をお読みいただいた方には、ぜひあわせてお読みいただきたい本だ。しかし『「学力」の経済学』をお読みいただいていない方にも、ぜひお読みいただきたい一冊でもある。

 結局、みんなに読んでほしいということだが、それだけ内容に自信のある、「育児にとどまらず、ビジネスの現場での人の育て方にも共通する、多様な具体論を包括的かつ論理的にまとめた一冊」である。

 そして皆さまの思われるところの「一流の育て方」を編集部に送っていただければ、次回以降の本連載で、一部、取り扱わせていただこうと思う。我々の「一流の育て方」をめぐる旅は、始まったばかりだ。次回も、本書を大事に抱きしめながら、「一流のやり方で、一流を育てるにはどうしたらいいのか」、極めて多様な具体論を、ともに議論していきたい。