リスク1.インフラ面での未整備
先ほどの調査でミャンマー進出においてまず大きく立ちはだかる問題が、現地の未整備なインフラ状況だ。長年にわたる軍事政権の支配で、ミャンマーではインフラ整備が遅れており、中でも電力不足、インターネットをはじめとする通信問題、工場用地不足や、道路整備の不備等に伴うロジスティックス上の問題は、進出を検討する際に大きな足かせになっている。
ミャンマーが急に脚光を浴びた2012年以降に、現地視察が殺到したが、結局そのわりに今まで具体的な話が進まなかった大きな理由が、このインフラ面での問題だ。ミャンマーに視察に来た企業の多くが、市場の可能性は感じるものの、インフラが整備されるまでは時期尚早と結論付けた。
特に、電力供給の問題は深刻で、電化率は13年実績で30%と、06年実績の16%から急速に改善したが、周辺諸国に比べるとなお低い。特に農村地域では、5世帯中4世帯までが電気を利用できないといわれる。現在は水力が総発電量の4分の3を占めており、水量が不足しがちな乾季においては、急にばちっと電気が止まる事態が起こる。
東南アジアの発展途上国の多くでも、電力供給が経済成長のボトルネックになっているケースが多い。ただその中でもミャンマーの状況は悪い。図表1-17は、ASEAN各国の発電量をGDPで割った経済規模と比較しての発電量であり、ミャンマーは域内においても最も低い状況だ。
こうした事態に対応するために、多くの店舗やホテル、工場、マンションなどが自前の自家発電機を用意している。自家発電の費用はばかにならず、せっかく安く製造ができると思って進出したのに、結果高くつく要因の一つになっている。特に製造業においては比較的電力を多く使用する高付加価値製品の製造がなかなか進まない。電力代による問題に加えて、急に電気が落ちることにより、製造機器の設定等に影響を及ぼすため、高い精度での製造工程を有する製造がなかなか行いにくい状況だ。こうしたことから、今まで進出している製造業企業の多くが、電力に依拠する割合の少ない縫製業等に偏っている。
ミャンマー政府もこの問題は深く認識しており、電力供給量を少しでも増やすべく手を打っているが、経済発展が進む中で、なかなか追いついていない。ミャンマーでは経済発展を背景に、電力需要が今後大幅に拡大すると予測されている。年率13%のペースで増えるとの見方もあり、政府は燃料バランスに配慮して発電所を建設する必要があると判断。水力や天然ガス火力に比べて発電量の少ない石炭火力発電について、総発電量に占める比率を引き上げる考えを示している。
電力問題に加えて厄介なのが、現地の通信事情の悪さだ。少しずつ改善の傾向にはあるものの、インターネットの接続環境の悪さには、仕事の効率性の観点からも、相当なボトルネックとなっている。
電力、通信以外にも、道路事情や不動産関連、工業団地の整備等、インフラ面での問題は枚挙にいとまがない。工業団地の整備についても、ティラワ経済特別区等、基本的なインフラが整った工業用地の整備が今後進むことは期待されるものの、まだまだ改善すべき点が多いのが現状だ。