予算をめぐる戦略コンサルと
クライアントとの攻防
戦略コンサルティングのビジネスは、コンサルタントとクライアントという2つのグループを中心に展開する。戦略コンサルティング・ファームは高額のフィーを請求する一方で、クライアント側はできるだけ費用を少なくしたいと考えるので、両者の間には緊張が生じることとなる。
クライアントは、「このプロジェクトは本当に8週間もかかるのですか? 6週間では無理ですか?」と聞くかもしれない。あるいは、「本当に4人ものコンサルタントが必要なのでしょうか? 3人ではだめですか」と言うかもしれない。なんとかしてコンサルティング・フィーを低く抑えようとするのだ。
たいていの場合、クライアント側には予算があり、その金額によって何人のコンサルタントを起用できるかが決まるので、予算を超える人数のコンサルタントを割り振ることはできない。またコンサルタント側は、新規のクライアントの場合は特に、約束した内容や請求する金額以上の働きを示さなければならないという大きなプレッシャーを感じることが多い。
私が勤めていたマッキンゼーでは、フィーの値引きは一切しなかった。その代わり、契約で取り決めた以上の仕事を無償で行うなど、とにかく一生懸命に働いた。このような状況の中でコンサルタントは、より少ない人数でより多くの成果を上げるように、絶えずプレッシャーにさらされることとなる。しかし、コンサルティングの仕事とは元来そういうものなのである。
コンサルティングの採算は
どのように決まるか
ほとんどのコンサルティング・ファームでは、クライアントごと、あるいはプロジェクトごとに損益計算を行う。プロジェクトに携わる各コンサルタントにかかる損益勘定は、大きく2つの部分に分かれる。
1つは、コンサルタントの貢献に応じてクライアントから徴収するフィーで、通常は時給や日給ベースで決まる。もう1つは、コンサルタントの雇用に伴ってコンサルティング・ファームが負担する費用で、給与や福利厚生費に加えて、事務所家賃や光熱費などの一般管理費が含まれる。
これらの損益明細が社内で公表されることはめったにないが(公表する場合もごく一部の人間に限られる)、コンサルティング・ファームは必ずこの計算を行い、プロジェクトが利益を生んでいるかどうかを確認し、記録している。
パートナーやプロジェクト・マネジャーは、自分のチームに起用するコンサルタントを決める際に、最も価値貢献度の高い人材(かかる費用に対してより多くの成果を上げる人材)を社内から探し出そうとする。できるだけ少ないコストで質の高い仕事を提供し、最大限の利益を得るためだ。
このとき、入社直後の新米コンサルタントに関しては、興味深い問題が生じる。これらの新米コンサルタントは、チームへの価値貢献度がマイナスとなることが多い。まだ実務に慣れていない彼らが行う仕事の中身は、経験を重ねた中堅コンサルタントが事細かにチェックしなければならない。その結果、新米コンサルタントの管理に要する余分な時間が、彼らの業務貢献分のほとんどを打ち消してしまう。
そこで、新米コンサルタントをプロジェクトのチームに引き入れることを半ば義務化するために、いくつかのコンサルティング・ファームでは、彼らにかかるコストを社内の損得勘定からは免除しているところもある。
言い換えれば、クライアントには新米コンサルタントでも起用に応じたフィーを課す一方で、社内ではプロジェクトの採算に関して彼らのコストをゼロとするのだ(この場合、彼らにかかる費用は人事部の教育費に配賦される)。
この取り決めによって、プロジェクト・チームにとってはコストのかからない労働力が得られることとなり、新米コンサルタントを指導・訓練し、何らかの価値貢献を引き出そうとするモチベーションが生まれる。この一見複雑な仕組みが採用されている大きな理由は、新米コンサルタントが独り立ちして問題解決に貢献するだけの能力を、まだ実績として示していないからである。