二世、三世経営者は、
「この質問」に答えられない

 すると、従業員の中には、「自分はこの会社にもう何十年もいて、まだ部長にしかなっていないのに、あの若いどら息子は帰ってきてすぐに専務だ。しかし、社長の息子だから仕方がない」と、不満を抱きながらも、それを胸の内にしまい込む人もいます。

 専務として帰ってきた息子はまず、病気のお父さんに経営の状況について聞いてみます。すると、「うちの会社はうまくいっている。売上はあまり大きくないけれども、利益もそこそこ出ているし、大丈夫だ」と言われます。そして、見よう見まねで商売を始めます。従業員や幹部は、息子を「専務さん」と呼んでちやほやします。

 会社はお父さんのおかげでそれなりにうまくいっていますから、地域の銀行の支店長までが、「専務、ぜひ当行をごひいきに」と頭を下げに来ます。そのため、本人は経営について何もわかっていないにもかかわらず、自分を偉い専務だと思い込むようになります。そのうちに青年会議所などに呼ばれて、出入りするようになります。そこでも周りからいっぱしの経営者だと言われるものですから、ますます勘違いをしていきます。

 しかし、このような二世、三世経営者は、経営について何もわかっていません。

 私がそうした人たちに、「あなたはどのように経営しているのですか」と質問しますと、「父が昔開拓したお得意先があります。そこから注文がきて、売上が上がるのです」という答えが返ってきます。

二世、三世経営者は、<br />「この質問」に答えられない。二世、三世経営者が答えられない「質問」とは?(写真はイメージです)

 次に、「今はどのくらいの利益が出ているのですか」と聞くと、「少ししか出ていませんが、うちはずっとそういう状況です」と答えます。さらに、「その利益はどうして出るようになったのですか」と聞きますと、「それは知りません。父の代からそうなっています」と答えるのです。

 このように、どうすれば売上が増やせるのか、どうすれば利益が出せるのかという根本的なことを、ほとんどの二世、三世経営者が知らないのです。

 そしてとうとう、お父さんが亡くなります。息子は後を継いでから、ずっと経営の根本を知らないまま、お父さんの築いてきた土台の上で、ただあぐらをかいていたに過ぎませんので、数年もすると、会社がガタガタになります。倒産という悲劇に追い込まれることもあります。経営の根本を知らないために、そのようなことが起きてしまうわけです。

 私はそのような事例を多く見かけているうちに、「彼らに経営の原点を教えてあげなければならない」と思うようになりました。経営とはどのようなものなのか。実際には泥臭いものです。それを教えてあげなければ、いくら高等な学問を修めても意味がありません。

『稲盛和夫経営講演選集 第4巻 繁栄する企業の経営手法』、「稲盛和夫の実学をひもとく 私の会計学と経営」より抜粋