社会保障給付の配分を大幅に見直し、子育て世代の支援を強化する。そのためには、公的保険制度についても、賦課方式で公的に関与する範囲をセーフティネットに限定し、自助努力に基づく個人勘定方式を拡充して、各個人が老後のリスクに備えなければならない。

 社会保障制度の抜本的改革は社会保障国民会議でも取り上げられず、現実の財政健全化目標では残念ながら議論の対象にならなかった。公的年金、医療保険、介護保険、いずれもわが国では賦課方式の元で十分に成熟しており、高齢者が現行の制度を前提に生活設計をしている。現在の社会保障制度が既得権化している場合、これを改革するのは困難である。

  まして、わが国の公的保険制度では高齢者も勤労期にそれなりの保険料を負担している。その見返りとして、老後の給付を受けるという制度になっている。給付が権利として認められている社会で、その権利たる給付の水準を引き下げるのはもちろん、制度自体を抜本的に改革することは政治的に相当厳しい。そうした事態が、社会保障制度の抜本改革の困難さを象徴している。

2004年年金改正の実現に高いハードル

 本連載でも簡単に触れたが、2004年に政府は相当大幅な年金改正を行った。すなわち、厚生年金の保険料は毎年9月時点で0.354ポイントずつ引き上げ、17年9月以降18.30%で固定するというものである。また、国民年金保険料も05年4月以降、毎年280円(月額)ずつ引き上げ、17年4月以降、1万6900円(04年価格)で長期固定する。毎年の引き上げ額280円は賃金の伸びに連動させて改定する。これを、保険料水準固定方式と呼んでいる。年金保険料を今後、毎年小刻みに引き上げていき、将来どこまで引き上げるのか、あらかじめ法律で決めておく。固定されるのは毎年の引き上げ幅とピーク時2017年の保険料となる。

 また、マクロ経済スライドを導入した。これは、給付水準を調整するための新しい考え方であり、マクロ経済には直接関係しない。むしろ、人口要因スライドの性格をもつ。すなわち04年以降の20年間に予想される人口要因の変化(公的年金加入者数の減少と65歳時平均余命の伸び)を考慮する。人口要因の変化率は年平均0.9%と見込まれており、その分だけ給付額が毎年、実質的に目減りしていく。ただ、物価が下がらない限り、給付の名目額は引き下げない。

 給付水準固定方式への切りかえが2017年から実施される。厚生年金におけるモデル年金の水準(2009年時点で62%強)を将来50%で固定し、それ以下には引き下げない。ただ、この水準固定は65歳時点に限る。66歳以降モデル年金水準は徐々に低下し、85歳超になると40%強になる。65歳時点におけるモデル年金の水準が50%まで下がった時点(政府の基本シナリオによると2038年度)でマクロ経済スライドは廃止する。なお、基礎年金の国庫負担割合は従来3分の1であった。その引き上げに04年度から着手し、09年度中に2分の1まで引き上げた。

 2020年代の財政状況は相当困難になる見通しである。社会保障を支える勤労世代は、数が少ない上に1人当たりの所得の増加も見込めない。他方で、社会保障の受給世代は、数が多くなるうえに、1人当たりの給付水準の引き下げに対しては政治的に強い抵抗がある。2017年以降、団塊の世代が後期高齢者になる2020年代半ばにかけて、2004年改正のシナリオが本当に実現するのだろうか。もちろん建前ではそうなっているが、政治的にその実現性には疑問符が付く。