経営者と従業員の
理想的な関係とは?

 しかし、彼らはこう言ってくれました。

「確かに、将来に不安もあったけれども、稲盛さんにお目にかかり、この人だったらついていこうと思い、ただその一心でがんばってきました」

 今、彼らは相当の資産家になっています。上場前は、京セラの株式を額面で分けていましたから、それが化けて、今はみんな大資産家になっているのです。だから、こうも言っていました。

「私は今六五歳になりましたけれども、家内も子どもたちも悠々自適で幸せに過ごせています。あなたに出会えたことが、今日をつくったのです」と、みんな本当に京セラで過ごした人生を喜んでくれているのです。

 しかし、私は言いました。

「だけどな、あんたなんかが偉いんだよ。ボロ会社の京セラに来て、なおかつ経営の経験も実績もない、三〇歳そこそこの若造の私を信じて、苦労を苦労とも思わず、ただ一心不乱についてきてくれた。だから今日があるのだし、それは私があげたものではない。あんたたちが自分自身でつくってきたものなんだよ」

 すると、彼らはこうも言ってくれました。

「いえ、私たちは本当に幸せです。あの当時、京セラより少しマシな会社に入って、はじめは威張っていた連中の中には、今では尾羽(おは)打ち枯らし、みじめな思いをしている者もいます。同窓会に出れば、そういう奴らから、『おまえはええなあ、ええなあ』とうらやましがられます。誰に会っても、おまえはなんと幸せな人生だろうと言われるのです」

「若い頃から夜もろくに寝ないで、休日も満足にとらず、ただただ稲盛さんを信じて、一緒になって懸命に働いてきたことが、今日のすばらしい人生をつくってくれたのです」

 このように話してくれました。創業して間もない零細企業の京セラに入社してはみたものの、すぐに辞めていった人はたくさんいました。その中で、最後まで残ってくれた人たちが、四〇年ほどたって、わざわざ謝恩会を開いてくれ、しみじみとこのような話をしてくれるのです。

 こういう人たちを、つくらなければならないのです。このような人間関係を、経営者が、企業内につくり上げていかなければならないのです。社長に惚れ込んで、どこまでもついてきてくれる人たちをつくり、そのようなすばらしい人間関係をベースとして、会社を発展させ、彼らを幸せにしていかなければならないのです。これが、企業経営者の務めです。

 全幅の信頼を置いて、経営者に従業員がついてきてくれる、それは従業員が社長に惚れ込んでいるということです。まずは従業員をして、社長に心底惚れ込んでもらわなければなりません。