海外からの産業スパイに狙われた?
川村 しかし二酸化炭素の蚊取り線香をいったいプールのどこにどうやって設置しているんですか? あと、肝心の培養液は何でできているのかとか…。
出雲 そこから先はもうかなり危ないところでして、企業秘密です(苦笑)。
川村 とはいえ、海外の企業などはしつこく偵察に来るんじゃないですか?
出雲 一時期はみんな本気でジャパンメイドの技術を欲しがって、ものすごい数のスパイがスパイじゃないふりをしながら、近づいてきたりしましたね。
川村 それはそれで楽しそうですね。自分のところに海外の産業スパイが来る日本人はあまりいないでしょう(笑)。
出雲 アメリカは周回遅れ程度なら、それこそスパイに盗ませたり、法律を変えたり、大金を積んで買収したりしますね。研究者や私のような人間を移住させてアメリカ人にして「これはアメリカがやりました」ってことにするために、日本の100倍くらいのお金を出す国です。
川村 まるごと買ってアメリカのものにしてしまう。
出雲 今、ロボットや人工知能や遺伝子などの分野で日本がアメリカに負けているといわれていますが、それは向こうの研究費が桁違いに大きいからなんです。ただ、ミドリムシでは我々が軽く2周は差をつけてしまったので、さすがに諦めたみたいですけど。
川村 どうしてそこまで差をつけられたんですか?
出雲 海外の人は手が大きいから、だめなんです。
川村 手の大きさって関係あるんですか?
出雲 冗談に聞こえるかもしれないですけど、マイクロマニピュレーターという顕微鏡でミドリムシを操作する細かい作業は、世界中で日本人しかできないんですよ。
川村 手先が器用じゃないとできないんだ。
出雲 それともう一つは、「乳酸菌が腸の中で頑張っている」という英語は存在しないんですよ。欧米人にとって菌はばっちいもので、基本的に悪いものなんです。だから、欧米では菌をやっつける抗生物質の学問はすごく進んでいます。一方で、日本は菌を活かす文化があって、乳酸菌だけでなく納豆菌、日本酒や味噌など、発酵食品は身体にいいとされてきた。ミドリムシの培養は、そういう意味でも日本人にしかできないんです。
川村 要するにミドリムシは「ヤクルト」のようなものなんでしょうね。あれは世界で誰も作れないと聞きました。
出雲 そうです。僕のいるバイオ業界で神様みたいな会社は、ヤクルトと味の素。ヤクルトは腸内の悪玉菌を減らすラクトバチルスを、味の素は旨味成分のグルタミン酸ナトリウムを世界に広めた。次はミドリムシですよ!
ユーグレナ 代表取締役社長
1980年広島県生まれ。東京大学文科三類在学中にインターンで訪れたバングラデシュで栄養問題に直面し、帰国後、農学部に転部。同じ学部に所属していた鈴木健吾(現ユーグレナ取締役・研究開発担当)とともに豊富な栄養素を持つミドリムシ研究を始める。2000年に大学卒業後はいったん東京三菱銀行(当時)に1年勤め、05年にユーグレナを設立。同年に世界で初めてミドリムシの屋外大量培養に成功。12年には東証マザーズ、14年には東証一部に上場。同年のJapan Venture Awards「経済産業大臣賞」受賞、世界経済フォーラム(ダボス会議)が選出する「ヤング・グローバル・リーダーズ」に選出される。社名のユーグレナはミドリムシの学術名。
1979年横浜生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業後、東宝にて『電車男』『告白』『悪人』『モテキ』『おおかみこどもの雨と雪』『寄生獣』『バケモノの子』『バクマン。』などの映画を製作。2010年米The Hollywood Reporter誌の「Next Generation Asia」に選出され、翌11年には優れた映画製作者に贈られる「藤本賞」を史上最年少で受賞。12年には初小説『世界から猫が消えたなら』を発表。同書は本屋大賞へのノミネートを受け、100万部突破の大ベストセラーとなり、佐藤健、宮崎あおい出演で映画化された。13年には絵本『ティニー ふうせんいぬのものがたり』を発表し、同作はNHKでアニメ化され現在放送中。14年には絵本『ムーム』を発表。同作は『The Dam Keeper』で米アカデミー賞にノミネートされた、Robert Kondo&Dice Tsutsumi監督によりアニメ映画化された。同年、山田洋次・沢木耕太郎・杉本博司・倉本聰・秋元康・宮崎駿・糸井重里・篠山紀信・谷川俊太郎・鈴木敏夫・横尾忠則・坂本龍一ら12人との仕事の対話集『仕事。』が大きな反響を呼ぶ。一方で、BRUTUS誌に連載された小説第2作『億男』を発表。同作は2作連続の本屋大賞ノミネートを受け、ベストセラーとなった。近著に、ハリウッドの巨匠たちとの空想企画会議を収録した『超企画会議』などがある。