ミドリムシで飛行機が飛ぶ?

川村 「飢えに苦しむ人を助けたい」という初心は実現しそうですか?
出雲 まさに初志貫徹で、ミドリムシ技術を全世界190ヵ国に使ってもらって、私自身が100万人まではコミットして、全世界で今世紀中にはミドリムシの給食で栄養失調がなくなるようにしたい。その後は私ができなかった分も含めて、続けてくれる人がいたらいいなと思います。

川村 素晴らしい。力強いですね。
出雲 その次は、並行して研究を重ねながら、「ミドリムシだけで、こんなに使い道があるんだ」ってことを社会に伝えていきたいと思っています。

川村 最近はコンビニやスーパーなどいろいろなところで、ミドリムシの学術名である「ユーグレナ」を冠したジュースとか塩とかサプリメントをたくさん見かけるようになりました。
出雲 食品以外に、化粧品会社との共同研究の結果をもとに、美容のプロダクトも発表しました。水分が失われてシワの原因になる繊維芽細胞に、ミドリムシを加水分解したリジューナというエキスを与えると、細胞がまた膨らんでふかふかになることを発見したのがきっかけなんです。他に胃潰瘍に効く成分なんかも発見したばかりです。

川村 ミドリムシの可能性は本当に無限大ですね。ところで今、ユーグレナ商品の売り上げはどれくらいなんですか?
出雲 2016年に110億円ほどになると思います。それだけ世の中の人々が、健康と環境というテーマを切実に欲していたんだと理解しています。

川村 その次の大きな一手は何になるんですか?
出雲 ミドリムシを使ったバイオジェット燃料で、飛行機を飛ばそうとしています。

川村 ミドリムシで飛行機ですか?
出雲 必ず飛びますよ。ミドリムシは細胞壁がないので、簡単に脂質を抽出できる点も強みなんです。2018年頃に予定している初回のミドリムシ・フライトには、川村さんも乗ってくださいね。

川村 燃料がミドリムシとか言われると不安だなぁ(笑)。固定電話が携帯電話になるとか日常的に使っていたものが進化するのは理解できますけど、技術的にわからないものって怖いんです。理系コンプレックスがあるから。ミドリムシで戦争がなくなる?
出雲 既に湘南台駅といすゞ自動車の藤沢工場の間を毎日20往復、ミドリムシ燃料で通勤バスが走っているんですよ。

川村 バスを使っての試運転が始まっているんですね。
出雲 2020年の東京オリンピックのときにはたくさんの方々が海外から来ますけど、共同研究をしているANAのミドリムシ・ジェットで羽田に来て、ホテルまでミドリムシ・バスで移動して、試合会場でミドリムシ・ジュースを飲んでもらいたい。そのために30億円を投資して、ANAやいすゞ自動車などと一緒に、横浜市にミドリムシ燃料の実用化に向けた工場を作ることにしました。

川村 科学技術に携わっている人からしたら、地球環境を保全しつつ永続可能な燃料は永遠の夢なんでしょうね。
出雲 そうなんです。20世紀を振り返っても、結局は原油をめぐる戦争の時代だったわけですから。

川村 ミドリムシ燃料をめぐる戦争は起きないですか?
出雲 これでまた諍になったとしたら、人間は本当に何も勉強しなかったってことですよ。

川村 すごく素朴な疑問なんですけど、今、飛行機を飛ばしている石油と、ミドリムシ燃料のコストって、どれくらい差があるんですか?
出雲 ミドリムシがまだまだ数倍はしますね。

川村 技術が進化すれば、差は縮んでいくものですか?
出雲 もちろんです。ただ、当初はおそらく「エコ便」とかいう枠にして、普通便よりちょっと高くても、あえて選んでもらえるような施策になるんじゃないかと思いますね。

川村 石油よりコストが落ちるっていう可能性はないですか?
出雲 そこは石油の産出方法から考える必要があって、自然を破壊して掘って出てくるものより、有機的に作り出すミドリムシ燃料の方がどうしても高くなるものだと思います。ただ、石油だって掘り尽くしてしまったら、海底油田とか難しいところから掘ってこないといけないので、そうなるとどこかのタイミングから石油の方が値が上がって、いつかは差がなくなると思いますね。