部下の限界を見極められないと
上司が損害を被る
女性社員が辛そうにしていたとき、課長は、女性社員がうつ病だということを知りませんでした。本人は心療内科に通っていましたが、上司には告げていなかったのです。
会社は「もしうつ病だと聞いていたらもっと配慮していた。ただ体調が悪いだけだと思ったので仕事を任せた」と主張しました。実際、うつ病だとわかった後は仕事の負荷を軽減しています。それでも裁判所は、うつ病であるとの認識がなくても、当初より配慮すべきだったと結論づけたのです。
この事例では、女性社員に本当に期待していたからこそ、会社は新規事業のリーダーを任せたのだと思われます。
しかし、困難な仕事をやりとげられる人と、そうでない人がいます。実際の能力に比して、要求レベルが高すぎるケースもあります。叱咤激励をポジティブに受け取るタイプもいれば、ショックやストレスになってしまうタイプもいるのです。課長は、そういうことも見極めながら、かつ人員配置の変更も視野に入れながら、部下を観察しなければなりません。
一度決めた決断を覆したり、一度見込んだ部下を見限るような格好になるのは気持ちの良いことではないでしょう。しかし、事例のように事件化してしまっては、誰も得をせず、遺恨とコストばかりが積み上がる結果になってしまいます。
労働問題専門の弁護士(使用者側)。1994年慶応大学文学部史学科卒。コナミ株式会社およびサン・マイクロシステムズ株式会社において、いずれも人事部に在籍。社会保険労務士試験、衛生管理者試験、ビジネスキャリア制度(人事・労務)試験に相次いで一発合格。2004年司法試験合格。労働問題を得意とする高井・岡芹法律事務所で経験を積んだ後、11年に独立、14年に神内法律事務所開設。民間企業人事部で約8年間勤務という希有な経歴を活かし、法律と現場経験を熟知したアドバイスに定評がある。従業員300人超の民間企業の社内弁護士(非常勤)としての顔も持っており、現場の「課長」の実態、最新の労働問題にも詳しい。
『労政時報』や『労務事情』など人事労務の専門誌に数多くの寄稿があり、労働関係セミナーも多数手掛ける。共著に『管理職トラブル対策の実務と法 労働専門弁護士が教示する実践ノウハウ』(民事法研究会)、『65歳雇用時代の中・高年齢層処遇の実務』『新版 新・労働法実務相談(第2版)』(ともに労務行政研究所)がある。
神内法律事務所ホームページ http://kamiuchi-law.com/