パートナー候補のスクリーニングのプロセス
前述の観点から、候補企業のリストアップを行った後、候補企業のスクリーニングに移る。せっかく複数候補をリストアップし、それらの対象候補にヒアリングを行ったとしても、その候補から主観や思い込みで合弁先を選出していたら、そもそも複数候補に会うことの意味合いが低減してしまう。従って、合弁先を絞り込む際には、よりロジカルかつ客観的な基準に則って選出プロセスを実行することが望ましい。その具体的なスクリーニングにおいては、下記のステップで行うといい。
●明確な除外対象とする項目はあるか、それに該当する企業はどこか
・SDNリスト対象企業への考え方
・すでに他の外資系企業と組んでいる企業
●スクリーニングで重視する評価ポイントの確認
・相手が当方の希望する事項をどれだけ有しているか
・当方が相手の希望する事項にどれだけ提供できるか
●各候補の評点付け
明確な除外対象とする項目はあるか、 それに該当する企業はどこか
リストアップした中で、明確に除外したほうがいい事象にはどのようなものがあるだろうか。個別ケースごとに色々と考えられるが、ここでは一般的にすべての企業にとって重要と思われる2つの点に絞って説明したい。それは、SDNリスト対象企業とすでに他の外資系企業と組んでいる企業だ。
1)SDNリスト対象企業
ミャンマーにおいては、軍事政権の民主化運動や少数民族に対する弾圧に対する糾弾から、欧米諸国は今まで経済制裁を課してきた。そうした一連の流れで、米国財務省外国資産管理局(Office of Foreign Assets Control: OFAC)は、現在においても特定の企業や個人に対して取引の制限を課しており、その対象者はSpecially Designated Nationals (SDN)としてリストアップされている。このリストが、SDNリストと称されるもので、これはウェブサイト上(http://www.treasury.gov/resource-center/sanctions/SDN-List/Pages/default.
aspx)でも確認が可能だ。
この中には、2015年12月28日時点において、ミャンマー大手財閥のHtooグループ等主要な企業も掲載されている。なお、全体の傾向として、ミャンマー企業・個人については、近年このリストから解除されるケースも散見される。その反面、新たにリストに追加される場合もある。例えば、2014年10月31日に、与党の有力政治家のU Aung Thaung氏が、新たにリストの対象として加えられた。その結果、同氏の子息であるU Nay Aungが過半数の株式を保有するUnited Amara Bankも今後制裁対象になるのではとの憶測から、預金者が預金を大量に引き出しにかかるような事態も発生した。
このリストに掲載される企業と取引を行うとどうなるのか。日本企業であっても、SDNリスト掲載企業または個人と取引を行った場合には可能性として米国の制裁法の適用対象となりえる。適用された場合には、取引額の2倍の制裁金が課されるだけでなく、取締役として意思決定した個人も禁錮や罰金の対象となりえると言われている。
それでは、本当にこのリストに掲載されている企業と何の取引もできないのか。実際のところは、全くのすべての取引を禁じているわけでもないようだ。ある大手企業が、SDNリスト対象企業との取引が発生し、OFACに確認したところ、軽微な取引であれば問題ないとの回答を得たといった話も聞こえてくる。ただ、米国で上場している企業や、米国での取引が大きい企業は、総じて注意深く対応している。
一方で、米国での事業を行っていない中小企業にとっては、比較的リスク度合いが低い。従って、むしろ他の外資系大手がSDNリスト対象企業と組めない間に、提携先として地歩を固めようと考える企業も存在する。
SDNリストに掲載されている企業には、昔からの財閥や有力企業も多い。現地での提携候補として、名前が挙がることもあるだろう。そこで、提携先とするか、除外対象にするかは、各社ごとに総合的に判断すべき事項だ。ただ、提携候補としてリストアップした会社が、SDN対象になっているか否かの確認はいずれにしても行ったほうがよいだろう。
2)すでに他の外資と組んでいる企業
最近は、ミャンマーの多くの業界で、現地企業の二極化が進んでいる。一方の極は、国際的な視点で事業を進めている各業界一握りの会社で、もう一方が、ミャンマーの旧来からのままで事業展開を行っている大多数の会社だ。どちらが一方的にいいとは言えないが、総じて国際的な視点での事業革新を進めている企業の成長度合いの方がより高い。
海外からミャンマーに参入を狙っている企業が、その提携先候補として狙うのは、当然国際的なマインドでやろうとしている会社になるのだが、どの業界ともそういった企業は限定的だ。従って、それぞれの業界でこうした一部の優良企業に対して、合弁の申し込みが殺到することになる。その結果、よい提携先は、どんどん組む相手が決まっていき、結果その業界の別の会社を探すことになる。
一方で、すでに別の外資系企業と組んでいる現地企業が、傘下の別の会社と組めば大丈夫と言ってくることがある。ミャンマーにおいては、まだ協業忌避の意識が弱く、相手は全く気にせずこうした提案をしてくる。一方で、日系企業からすると、仮に相手がいいよと言ってきても、同業の競争相手がすでに組んでいる場合は、なかなか組みにくい。ただ、悩ましいのは現地でまともな対象先が限られている場合、基本的には他の候補が存在しないことだ。
業界の直接のライバル企業と組んでいる場合は、明確に提携先候補から除外したほうが賢明だろう。ただ、現地の提携先が、直接のライバル企業でない場合等、業界の線引きの仕方等のやり方次第では、すでに別の外資と提携を結んでいる企業も、自社の提携先候補になりえるのかもしれない。従って、ケースバイケースで判断する必要があるが、いずれにしても対象企業がどことすでに提携を結んでいるかは確認する必要がある。