これも1つの選択だ。僕は歴史に明るいわけでもないが、どちらもかなり価値がありそうだということはわかる。そのうちどちらか一方をもらえるのだから、かなりおいしい話なのは間違いない。問題はどちらがよりおいしいのか、だ。

この判断の拠りどころとなる「価値の基準」もさまざまだろう。
よくあるのが、「どれくらいお金がかかったのか?」で比較するやり方である。

ヴェルサイユ宮殿の建築コストはどれくらいだろうか? これを建てたフランスのルイ14世は、何かと金遣いが荒かったことで知られている。戦争好きで軍事費もかさみ、寄生貴族に対する年金の支払いだとか、宮廷の諸行事にもお金が必要だったため、国はほとんど破産寸前だったという。

この宮殿は1661年に着工して以来、長い年月をかけて建設され、完成後にも何十年にわたって改修・増築を繰り返したとか……。総工事費は7000万ルーヴル、現在のお金にすると400億円に相当するそうだ。

一方、ピラミッドについては、1970年代後半に大手建築会社がコスト見積もりを出したことがあるという。当時は1250億円という見積もりがされたが、最近の調査では総額3675億円は必要だったという説もある。

さらに、「10万人の奴隷が20年間働いてつくった、クフという残忍なファラオの墓」というヘロドトスの言葉を真に受けるとすれば、莫大な額の労働コストがかかったはずだ。当時の奴隷は、国家事業のために雇用された自由労働者だったという説もあるようなので、1人あたりの年収を500万円と見積もったら、これだけで10兆円(=10万人×500万円×20年間)を超えることになりかねない。

「役立たない」なら「価値がない」のか?

建築にかかったコストという観点からすれば、ピラミッドのほうが圧倒的に価値が高いという結論になりそうだ。

だからといって、「では、ピラミッドのほうをいただきます!」と即決する人はあまりいないだろう。たとえば、価値判断の基準を「どれくらい役に立つか?」にしてみると、また答えは変わってくるからだ。