僕がここで何をしたのかわかっただろうか。負債という道具を使うことで、「リスクの差をリターンの差に変換した」のである。僕たちは「同じリスクなら、リターンは高いほうがいい」という感覚はすでに持っている。しかし、「同じリターンなら、リスクが低いほうがいい」という真実には直感的にたどりつきづらいのだ。

そこで、ちょっとした操作を加えることで、「同じリターン、違うリスク」を「違うリターン、同じリスク」に変換したのである。

リスクがどのように変化しているのかを確認するために、ルーレットBに2倍賭けるゲームを全額自己資金で行ったとしよう(元手80万円)。リターンの平均額は20万円(=(150万円+50万円)÷2-80万円)だから、元手に対する平均利回りは25%だ。これをもとに標準偏差(リスク)を計算すると62.5%となる。

一方、40万円をタダで人から借りて賭け金2倍のゲームをした場合、リターンの平均額は20万円(=(110万円+10万円)÷2-40万円)、元手に対する平均利回りは50%、リスクは125%になる。つまり、全額自己資金の場合に比べ、半分を負債で調達した場合は、リターンもリスクも2倍になるわけだ。

やはり、ハイリスク・ハイリターンの法則は正しかったことになる。

MM理論の第2命題は、まさにこのルーレットゲームを企業に置き換えたものだ。
前者は株主資本100%の会社、後者は負債を半分取り入れた会社に等しい。

第2命題を確認してみよう。

MM理論の第2命題:営業利益が相等しい場合には、他人資本を利用する企業の株式収益率の期待値は、資金のすべてを自己資本で調達している企業の株式収益率の期待値に、借入のために付加されるリスクを加えたものに等しい。

解説しよう。負債を利用するとCOE(株主資本コスト)、裏返せば、ROE(株式リターン)は上昇する。負債の割合が増える分、株主資本は減少するが、COD(負債コスト)はCOEよりも低いため、キャッシュフローはそこまでは減少しない。結果として、1株あたりのキャッシュフローが相対的に増え、ROEが向上することになるのだ。