マーケットを「人体」にたとえると…
ノーベル賞経済学者のシャープの考え方は、市場全体を一種の有機体のように捉える発想だとも言えるかもしれない。
マーケット・ポートフォリオが人体なのだとすれば、個別株式はそれを構成するそれぞれの細胞である。それぞれの細胞が健全に機能することで、人体の健康が保たれているのと同じように、それぞれの個別株式が独立した動きをすることで、マーケット・ポートフォリオはリスク・リターン平面の王者でいることができる。
ある細胞がガン化して増殖をはじめれば、人体に深刻な影響を与える。それと同様、ほとんどの株式が同じ動きをするようになってしまったら、そこに保たれていた秩序は崩れ、もはやマーケット・ポートフォリオは王様ではいられなくなるのだ。これは、ルーレットで赤ばかりにかけるカジノ団体客や、1回のゲームに莫大な掛け金をつぎ込む金持ちギャンブラーにも似ているかもしれない。
シャープは、個別株式をあたかも細胞のように捉え、それ単体だけでの機能を考えることをやめた。個別株式のリターンは、その株式自体のリスクからではなく、マーケット・ポートフォリオに与える影響とセットで判断すべきなのである。
もちろんそこでは、マーケット・ポートフォリオにすでに投資していることが前提になる。そう、個別の株式しか持たない投資家にとっては、CAPMは役に立たないのだ。その意味で、シャープの打ち出した発想は、マーコウィッツの現代ポートフォリオ理論をさらに拡張するものだったと言えるのである。
プルータス・コンサルティング代表取締役社長/
企業価値評価のスペシャリスト
1984年、京都大学経済学部卒業後、富士銀行(現みずほ銀行)に入行。1989年、JPモルガン・チェース銀行を経て、ゴールドマン・サックス証券の外国為替部部長に就任。「ユーロマネー」誌の顧客投票において3年連続「最優秀デリバティブセールス」に選ばれる。
2004年、企業価値評価の専門機関であるプルータス・コンサルティングを設立。年間500件以上の評価を手がける日本最大の企業価値評価機関に育てる。2014年・2015年上期M&Aアドバイザリーランキングでは、独立系機関として最高位を獲得するなど、業界からの評価も高い。
これまでの評価実績件数は2500件以上にものぼる。カネボウ事件の鑑定人、ソフトバンクとイー・アクセスの統合、カルチュア・コンビニエンス・クラブのMBO、トヨタ自動車の優先株式の公正価値評価など、市場の注目を集めた案件も多数。
また、グロービス経営大学院で10年以上にわたり「ファイナンス基礎」講座の教鞭をとるほか、ソフトバンクユニバーシティでも講義を担当。目からウロコの事例を交えたわかりやすい語り口に定評がある。
著書に『私はいくら?』(サンマーク出版)、『お金はサルを進化させたか』『パンダをいくらで買いますか?』(日経BP社)、『ストック・オプション会計と評価の実務』(共著、税務研究会出版局)、『企業価値評価の実務Q&A』(共著、中央経済社)など。