海外に塚田農場の「おもてなし精神」を広げたい

【中原】いま32歳でいらっしゃいますが、今後どういうふうに生きていきたいと思いますか?

【大久保】僕は基本的に、目の前の仕事をどういうふうにハイパフォーマンスで乗り越えるかというマインドでやってきたので、これまでは将来的なビジョンなどについては、あまり考えてこなかったんです。ただ、シンガポールの子会社(AP Company International Singapore Pte. Ltd.)の社長になってからちょっとだけ変化が生まれていて…。

たとえば、「中国人の愛想が悪い」とか「シンガポール人は働かない」とか言われますけど、実際に現地を訪れてみると、彼らに愛想や勤勉さが欠けているわけではなくて、「考え方」がないだけなんですよ。だから、「切符売り場の人がすごくいい笑顔をしていたら、みんなの気分がよくなるよね」ということを彼らが納得すれば、そういう状況って変わるんですよね。

今は、そんな日本のおもてなし文化を海外に広めたいと思っています。シンガポールでやってみたらうまくいったので、次はインドネシアに広めていきたいなと。

【中原】ホスピタリティは海を超えるということですね。海外ならではの難しさはありませんか?

【大久保】逆に、アジアの人たちに研修をすると、日本人以上に感動してくれるんですよ。僕は北京でも研修を担当していますが、涙を流して感動するスタッフも珍しくありません。中国のスタッフの中には、学校教育をしっかり受けていない人もいて、彼らにとっては「会社が教育をしてくれる」ということがものすごい贅沢なんです。ですから、中国のお店でも、サービスも笑顔もどんどんよくなってきていますよ。

【中原】大久保さんのお話を伺っていると、先日、トヨタ自動車さんにお邪魔したときのことを思い出しました。80年代にトヨタが海外進出した際、現地の人を動かすいちばんの方法が「公平に教えること」だったそうです。人種という色眼鏡をかけないで接して、日本の優れた技術を徹底的に教えているうちに、トヨタに対するリスペクトが生まれて、現地の人が動いてくれるようになったのだとか。

【大久保】シンガポール子会社の現地人幹部に子どもが生まれたんですが、彼は僕の「大久保」という名前をもじって、息子に「オクボッシュ」という名前をつけてくれたんです(笑)。それくらい信頼関係が構築できていることは僕もうれしいですね。

アルバイト応募者は
事前に職場を「下見」している

【中原】最後に、人手不足で悩んでいる店長たちにメッセージをお願いします。

【大久保】入口(採用)だけを考えると人手不足になります。採用だけでなく、育成から離職までのプロセスすべてをしっかり整えることが、いちばん大切なのだと思います。

僕の持論が「いいスタッフがいいスタッフを呼んでくる」です。いいスタッフが入っていいお店になると、なぜか応募が増える。なぜなのかは説明できないんですが、店の前を通りがかったら楽しそうだから入ってくる、という雰囲気が自然に出るのでしょう。

【中原】実は、今回の我々の調査でも、アルバイト応募者の5割近くが事前に「下見」をしているというデータが出ています。ですから、「いい職場をつくること」こそがアルバイトの離職を防ぐ上でも、採用応募を増やす上でも、やはりいちばん大切なのだという大久保さんの直感は、今回の調査でも見事に実証されていると思いますね。

【中原・渋谷】今日は素晴らしいお話をありがとうございました!

(鼎談おわり)

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