新人賞や持ち込みがなくても、新人は発掘できる
三木 ところで、「モーニング」の、新人漫画賞の審査とかはされているんですか?
佐渡島 してないです。
三木 たとえば、「コルク」が新人とか新作を生み出そうと思ったときに、今までの「モーニング」編集部なら、持ち込みや毎月の漫画新人賞があって、常に募集しているじゃないですか。あれは、『モーニング』という媒体力があってこそできていることだと思うんですけれど、「コルク」はその新人賞に関わっておらず、持ち込みもないとしたら、優秀な「次の新人、次の新作」をどうやって探ろうとされているのかが気になります。
佐渡島 講談社時代に『宇宙兄弟』のムックを作ったことがあるんですけど、ふつう編集部がムックを作るときって、講談社だけかもしれないですけど、複数の部員で協力して作るんですね。でも僕、『宇宙兄弟』のムックは宇宙兄弟担当だけで作ったんですよ。部内の他の担当作家さんには、ほとんど声をかけませんでした。
そこでネット上で、原稿書けるかどうかわからないけど面白そうな人に声かけたんです。たとえば山中俊治さんというすごいデザイナーの方に、「未来のロケットデザインについてエッセイを書いてみてください」って頼んでみるとか。Twitterが面白いダヴィンチ恐山に「絶対面白いのを書けるから小説書いてみよう」とか。小説家の宮下奈都さんに「短編を書いていただけませんか」ってTwitterで話しかけて。興味あったらDMで直接やりとりして。その方法で、ムックの原稿が集まったんです。
Twitterでその人の発言を24時間365日見ていると、その人がどういうところにアンテナを張っていて、面白いものを書けるか書けないかっていうことは、書いたことなくても想像できるんです。だからこっちのアンテナの貼り方次第で新人て見つけられるなって思うんですよ。
これからは「作家がいい編集者を見つける」ことが大切になる
佐渡島 今後の漫画家とか小説家や新しいクリエイターは、SNSをどう使いこなせるかが重要。さらには自分をプロデュースしてくれて、自分が作品に集中できる環境を作ってくれるのが重要だから、そのために自分で編集者を見つけることも必要になってくると思います。昔は、自分にあった媒体を見つける必要があったわけですが、これからは、自分のためにチームを組成してくれる人が必要になります。
出版社とかメディアの場合は、メディアの空白を埋めないといけないじゃないですか。だから編集者が作家に声をかけなきゃいけなくて、作家は編集者から声がかかるのを待つ。それでいっぱい声がかかるのがいい作家だったと思います。でも、作家のほうから自分にあったいい編集者に声をかけれるかどうかも作家の才能のひとつじゃないかと僕は思っています。
ただ、僕個人は経験があって、新人の見つけ方を知っていますが、コルクという会社の新入社員がどういうふうに新人を見つけるのかを考えるのも僕の仕事です。やはり会社としての仕組みが必要だなと思っていて、noteと一緒に新人賞をやったりしました。新しいメディアと組んで、僕らが審査委員をするのはありえると思っています。
三木 なるほど、今はメディアがたくさんありますから、そのどこかと組めばいいんですね。いい意味でいろんなところと組めますもんね。
佐渡島 逆にいろんなところと組めるから、いろんなタイプとも会えるんですよ。
三木 たしかにそういう意味では、既存の出版社ではなく、新しいプラットフォームとも組むことができるわけですしね。
佐渡島 だから新人はいくらでも見つかりますよね。
あと、今『宇宙兄弟』のサイトでどんどんいろんな連載が始まっているんですよ。宇宙関係のことで、NASAの研究者のエッセイとか、ロボットの研究者のエッセイとか。今後もっと増えていくんですけど、もっとアクセス数が伸びたら『宇宙兄弟』に影響を受けた新人漫画家の連載も始めようと思ってるんです。
そういうふうにしていくと、全部それぞれの作家の下に、その作家に影響を受けた外部の人とか、漫画家とか小説家のものも載るようにしていく。そこでたとえばさらに二次創作まで許容してしまって、それが売れたら、その人にも印税を渡すっていう仕組みとかまで作ることが可能かもしれない。
結局、作家はみんな他の作家の影響を受けているわけだけども、それを可視化してあげると、作家にもいい影響があると思っています。小山宙哉の影響を受けている人は小山宙哉のサイトでやったほうが当たりやすいんですよ。
三木 なるほど。たしかにそういったほうが「ドラマ」があるし、同じ趣味や嗜好を持っている方々にも親切で見つけやすい施策ですね。
佐渡島 そこで一回、小山宙哉のファンを自分のファンにもした漫画家が、スピンアウトして、自分のサイトを作って今度またそこでやってくるっていう、料理人の「のれん分け」みたいなシステムでメディアを作って行こうと思っているんですよ。
三木 不良漫画をいろんな漫画家さんが描く某出版社さんのシステムだ(笑)。
佐渡島 そうですね。あれをネットでやっていく感じですね。
三木 なるほどなるほど。自分も、コルクさんのようなお仕事を視野にいれて、新会社を立ち上げていますので、非常に勉強になりました。
佐渡島 よかったです。
三木 佐渡島さんに以前お会いしたとき、「自分たちの仕事は、作家のメリットを追求するだけではなく、出版社のメリットも追求し、作家、出版社、コルク、三者すべてが今までよりも利益が出るモデルを目指している」というようなことをおっしゃっていたんですよね。それがとても、素晴らしいなと。
佐渡島 そうですね。ビジネスは、全員がハッピーになってこそ継続性があります。
三木 欧米のエージェントというのは、やはり片方にだけしか利益をもたらさないイメージがありまして、たとえばプロ野球選手のエージェントなら、球団からはどうしても悪役のような印象も受けがちです。
しかし、佐渡島さんは先ほどのように、欧米式エージェントではなく、いわば「日本式エージェント=未来の編集者像」を模索しているところが、大変ずうずうしいのですが、僕の思想とも合致していたんです。
佐渡島 ありがとうございます! 一緒に頑張っていきましょう。
三木 だからこそ佐渡島さんは、今も講談社とお仕事をされているのでしょうし、僕のほうもこれからも電撃文庫でバリバリと仕事をさせていただくつもりです。そして、出版社からは「こいつに仕事を頼むと本がたくさん売れるな、便利なやつだな」と思ってもらいたい。それが理想ですね。
※続きは来週の火曜日に公開します