ハーバードはこうしてリーダーを育てている

ムーギー 一方では、挫折ばかりしていたり、コンプレックスの塊では、つぶれてしまいそうですよね。石川さんは、その後、コンプレックスからうまく抜け出されたんですか?

石川 高校時代はまわりがそんな感じだったので、自分に自信を持ったことがなかったです。はじめて自信を持てたのはハーバードに留学したときです。

ムーギー そうなんですね? ハーバードに行って自信を失う人のほうが多そうな気がするんですが。

石川 ハーバードでの勉強は、日本の勉強と全然違いました。ぼくはハーバード式に合っていたということかもしれません。やっぱり、学校の教え方に合う、合わないということは、人の能力が伸びるうえでとても大きいと思います。

 たとえば、ぼくには弟がいるんですが、弟は勉強がまったく好きじゃなくて、高校3年生のときの偏差値は29でした。さすがにどこの大学にも受かりません。一浪して二浪して、それでもダメで。

 それで母親に思うところがあって、アメリカの大学に行くことを勧めたところ、弟はアメリカの大学に入り、自分の能力をぐんぐん伸ばしていくことができました。日本にいるときは英語なんて一言もしゃべれないという感じだったのに。

ムーギー ハーバードは、日本とどんなところが違ったんですか?

石川 ハーバードではまず最初に、「おまえらに処理しきれないほどの宿題を与える」って言われました。なぜなら、ハーバードはリーダーの養成学校だからだと。処理しきれいない量の情報の中から優先順位を決めて成果を出していかねばならないというわけです。

ムーギー 完璧主義で全部こなしたい、ミスしたくないという人にはストレスですよね。

石川 そうなんです。それでつぶれちゃう人が多いですね。ぼくはどうやったかというと、島田紳助さん方式です。紳助さんがNSC(吉本総合芸能学院)大阪でやった特別講義が『紳竜の研究』というDVDになっているんですが、その中で「島田紳助はなぜ何でも知っている(ように見える)のか?」ということについて語っています。

 それは、「みんなが知っていること」「勉強していること」は知らなくていいから、ちょっとマイナーな部分に詳しくなれ、という話なんです。たとえば、野球は詳しくないのに「プロ野球」がテーマの番組に出たときは、「好きな選手は赤松選手」などと、あまりメジャーではない選手の名前を挙げる。「なんで?」と食いつかれたらディテールを熱く語る。そうやって、どんなジャンルでも詳しそうに見せているというんですね。

 ぼくは「これだ!」と思って、宿題の中でメインではない部分を丸暗記しました。それで、そこの知識を詳細に話して、「教科書の何ページにこう書いてあった」と言ったところ、「すごいな」となって(笑)。英語はそんなに得意じゃなかったけど、いい成績をもらえました。

ムーギー ハーバードでの勉強法をお笑いの話をヒントにして編み出すとは面白いですね。そして、やはり膨大な課題を課されると、学生の側でも知恵を絞って戦略が生まれるわけですね。

「優れた研究者になる」ために大事なこととは?

石川 そのあとぼくは研究者になるわけですが、「優れた研究者になるために大事なことは何だろう?」と考えてみました。わかったのは、「問いの立て方」が重要だということです。解くのも大事ですが、そっちでは1番にはなれないようだと思いました。ロシア人の研究者なんてめちゃくちゃ優秀ですからね。ぼくは、問いを立てるほうだったらなんとかやっていけそうだと思いました。

 問いを立てるときは「ロジックを捨てろ」と言われます。一見つながらないものを見て、「ひょっとしたらつながるんじゃないか」と考えるような直感力が必要なんです。

ムーギー たとえば、どのようなことでしょう。

石川 アインシュタインの「E=mc2(二乗)」はエネルギーというものが、質量×光の速さの二乗と等しいということですよね。これはロジックに見えるかもしれませんが、一見つながらないものを方程式にしてつなげているんです。こういうものは、じつはロジックからは出てこないんです。

 ぼくはダイエットの研究をしているんですけど、研究をしていると、答えではなく「問い」のほうがどんどん出てくる。ダイエットというと毎日体重をはかる必要があるはずだけど、そもそも体重計の原理ってどうなっているんだろう? とか、体重計にかかっている力を重力加速度で割ると体重になる、つまり、体重とは「力÷引力」なんだなぁと思って、じゃあ、月に行ったら体重が少なくなるから、これが最もいいダイエットなのではないかとか(笑)。いろいろと問いが出てきてなかなか前に進まないんですが、ぼくの場合、こうして「つまずいていくこと」で研究が広がっていくんです。