『週刊ダイヤモンド』6月4日号の第1特集は「数式も簿記もいらない! ファイナンス力の鍛え方」。会計とファイナンスのスキルは今や出世に必須のものとなりました。そのため、非常に習得熱が高まっています。

 2015年、1月23日金曜日の午後8時。投資ファンドのインテグラルの佐山展生社長は、電話を切ると大きな決断をした。

 電話の相手は、独立系航空会社スカイマークの幹部。その幹部によると、スカイマークの資金は早々に底をつく予定で、支援する企業もなく、このままでは破産するという。佐山社長はすぐさま社員を送り込んだ。

 それから4日間、インテグラルの社員5人は、東京・羽田の格納庫の横にあるスカイマークの本社に昼夜問わず缶詰めとなり、帳簿をひっくり返して数字を確認し、どれくらいの現金があれば会社が回るのかを必死に計算した。

 1月28日、インテグラルの支援の下、スカイマークは民事再生法を申請し、何とか存続することとなった。

「90億円あればスカイマークは存続できる」と踏んで、当初その半分の45億円を融資したが、15年9月にANAホールディングスも加わった新体制発足時点で、社内の現金は二十数億円も余っていた。佐山社長たちの読みは当たったのである。まさに、会計とファイナンスのスキルの勝利だ。

 その佐山社長は「現代のビジネスパーソンは、財務3表が読めなければ駄目」と断言する。

 会計とは売上高や利益を集計し財務3表にまとめること。ファイナンスとは、それを基に資金を調達し投資する行為のことだ。

 今、会計とファイナンスは出世のための必須スキルとなっている。

 例えば、ソフトバンクグループの孫正義社長が、自社で働く社員に必須のスキルとして備えてほしいと掲げる四つの柱は英語、テクノロジー、統計学、そしてファイナンスなのだ。

 ソフトバンク社員専用の学校ソフトバンクユニバーシティでは、会計とファイナンスの授業が人気となっている。五つのコース全てがキャンセル待ちの状態だという。

 講師となるのは、社内で実際にファイナンスを武器に最前線に立つ社員たち。

 講師の一人である関口範興・グローバル営業本部第二営業統括部キャリアボイス営業部部長は「基本的な理論だけではなく、実戦で生きるように、モデルケースを実際に考えさせるような教え方をしている」と言う。

 何しろ、ソフトバンク社内で新たなプロジェクトを立ち上げる場合、申請のためのエクセルの様式に、ファイナンスの公式に関わる数字の入力が必須となっているほどだ。

高まる会計とファイナンスの習得熱

 大企業だけではない。ベンチャー企業でも会計とファイナンスの知識の必要性は高まっている。

 ベンチャー企業への投資を行うiSGSインベストメントワークスの五嶋一人社長は、先日、30人ほどを集めて会計の勉強会を開くことをSNSのフェイスブックで告知した。すると、応募は「700人を超えてしまった」(五嶋社長)。結局70人まで拡大してインターネットで中継もしたが、参加者にはIT企業の経営幹部も少なからずいたという。

 経営幹部の役職を示すものにCFO(シーエフオー・最高財務責任者)がある。

 収益性が高いゲーム会社のコロプラの長谷部潤取締役CFOは、「CFOは常に不足している」と明かす。長谷部CFOは若手CFOの会などで財務の知識を伝授するなどしているが、IT企業の経営幹部からは「良いCFO候補はいないか」という相談がひっきりなしに来ているという。

 財務は現代の会社の経営方針の根幹にある。

 つまり、財務が分からなければ、会社が自分に何を求めているのかを理解できない。そんな状況で一生懸命働いても評価につながらない。出世できないのだ。

 今や、商社の採用試験にチャレンジするような大学生や若い層ほど英語と共にファイナンスの勉強もしているという。うかうかしていると、40〜50代は置いていかれることになる。

 しかし、難しく考えないでほしい。会計には簿記や仕分けは必要ないし、ファイナンスでも公式を暗記する必要はない。双方共に、背景にある大きな考え方をまずは理解することが大事なのだ。

 書店を見渡せば、最近、会計やファイナンスの本が増加していて、ベストセラーの上位に食い込んでいる。2000年代に会計の本がブームとなった時期があるが、再び習得熱が上がっているのだ。

会計は財務三表をざっくり理解でOK
ファイナンスも基本コンセプトで十分

『週刊ダイヤモンド』6月4日号の第1特集は「数式も簿記もいらない! ファイナンス力の鍛え方」です。

 ここまで紹介しましたように、会計やファイナンスのスキルの習得熱は高まっています。

 とはいっても、今までにチャレンジしようとして挫折した人も多いのではないでしょうか。一部の指南本では、簿記や仕分けを要求するものもありますし、そもそも財務三表には細かい項目がたくさん並び、頭がクラクラするという人もいるかと思います。

 でも、安心してください。ざっくりでいいんです。会計は財務3表を“作る”レベルまで達する必要はなく、“読む”ことができればいいのです。ファイナンスには数式が登場しますが、実は、よく見ると単純なことしか言っていませんし、しかも、それは暗記する必要はありません。

 会計とファイナンスはセットで習得するのがお勧めです。今回は、特に著作で分かりやすさを優先して解説している著者に登場してもらい、楽チンに学べる方法を惜しげもなく披露してもらいました。

 入門編ともいえるPart1では、絵や図を多用してざっくり財務3表を理解できるようにしました。財務三表とは損益計算書(PL)、貸借対照表(BS)、キャッシュフロー計算書(CF)のことです。

 応用編のPart2では、ROEなどよく新聞や雑誌に登場する主要経営指標について、“分解”することで、理解を深めます。

 実践編であるPart3では、「現在価値」や「割引率」など、ファイナンスの基本コンセプトについて図をもとに解説しています。

 そして、データ編では、会計やファイナンス知識が投資にも役立つように、主要銘柄416社について最新決算を反映させた2期先の予想増益率でランキングし、それぞれにROEやROA、ROICといった経営指標も掲載しています。

 会計に関する人気著作を多く執筆されている國貞克則氏に「なぜ、多くの人が会計の知識を身につけようとするんですかね」と聞いたところ、「誰しも一回は会計の単語がわからなくて会議で恥をかいたことがあるから」との回答でした。

 特集が、会議室で顔を赤くする人の数を一人でも減らす一助になればと思います。