理科と社会を「血肉」にさせる

佐藤 さらに東京の大学に進学して、小学5年生の家庭教師をした経験も大きかったですね。その子は中学受験を考えていて、大手予備校の四谷大塚に通っていました。私が生まれ育った大分には熾烈な中学受験なんてありませんから、はじめは「大変だな」くらいに思っていたんです。ところが、四谷大塚のテキストを見て驚きました。「こんなに体系立ててきっちり説明してくれるテキストがあるんだ!」って。

ムーギー 体系的なテキストが、カルチャーショックだった。

佐藤 ええ。大分でぼんやりと生きていた私に比べて、都会の子はこんなにもがんばっている。「旬」のときにちゃんと詰め込んでいる。この差は大きいと思いました。

ムーギー そうか、私立中学校が盛んでない地方都市だと、早くて高校受験から。だから……。

佐藤 がんばりはじめるのが14歳、15歳でしょう?でも、都会にいる子どもたちは、中学受験する10歳〜12歳の頭が柔らかいときに、優れたテキストを使ってどんどんインプットしている。これはすばらしい、子どもを産んだらきっと四谷大塚に入れようとそのとき決意しました。

ムーギー・キム
1977年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。INSEADにてMBA(経営学修士)取得。大学卒業後、外資系金融機関の投資銀行部門にて、日本企業の上場および資金調達に従事。その後、世界で最も長い歴史を誇る大手グローバル・コンサルティングファームにて企業の戦略立案を担当し、韓国・欧州・北欧・米国ほか、多くの国際的なコンサルティングプロジェクトに参画。2005年より世界最大級の外資系資産運用会社にてバイサイドアナリストとして株式調査業務を担当したのち、香港に移住してプライベートエクイティファンドへの投資業務に転身。フランス、シンガポール、上海での留学後は、大手プライベート エクイティファンドで勤務。英語・中国語・韓国語・日本語を操る。グローバル金融・教育・キャリアに関する多様な講演・執筆活動でも活躍し、東洋経済オンラインでの連載「グローバルエリートは見た!」は年間3000万PVを集める大人気コラムに。著書にベストセラー『世界中のエリートの働き方を1冊にまとめてみた』(東洋経済新報社)がある。

ムーギー 結果として、息子さんたちが入ったのは関西の名門塾、浜学園というわけですね。

佐藤 ええ。四谷大塚、関西にはなくて(笑)。でも、浜学園のテキストも同じように優れていましたから、信頼してお任せできました。とはいえ長男を4年生で浜学園に入れたときは、「灘中学校」がどこにあるかも知らない状態。ただ、星を見たときに「キレイ」で終わらず星座や宇宙について思いを馳せられるように、また、旅行に行ったときに「楽しい」で終わらずその土地の歴史を含めて楽しめるように——―とにかく「理科と社会を彼らの血肉にさせたい」という思いで塾に入れたんです。人生を豊かにするのが、小学校の理科と社会だと思って。

ムーギー なるほど、最初から受験を意識していたわけではなかったというのは、そういうことなんですね。

佐藤 ただ、いざ通い始めると子どもたちは「算数がおもしろい」と言いはじめて。こちらのもくろみとは少し違ったのですが、勉強が好きになるにつれ成績も上がったので、灘中学校を受験することにしました。

ムーギー なるほど。塾に行った子どもが「勉強がおもしろい」と言いはじめる。これは、世のお母さんたちが切望している結果でしょうね。この「勉強のおもしろさを伝える」ことの大切さは、『一流の育て方』の第四章でも重点的に論じられています。また先日対談させていただいた石川善樹さんも、SAPIXで勉強の楽しさを教えてもらったと語っておられました。よい塾というのは、単にスパルタ式に勉強させるのではなく、学ぶこと自体の楽しさを教えてくれるということですね。