子育てを通じて親も「成長」を意識する

佐藤 そもそも世のお母さんたちは、テストの結果が出てから急に勉強に関わろうとするんですよ。「なんでこんな点数なの!」って。でも、すでに点数は出ているわけですから、そこで叱ってもムダ。点数が出る「まで」に関わらないと、意味がないんです。たとえばテストが70点だったとき、そのプロセスに関わったからこそ「どうして30点もミスしたんだろうね?」と理由を聞いて、一緒に解決策を考えられる。ただ子どもが70点の負い目を感じて終わるのではなく、次に活かすことが大事です。

ムーギー なるほど。とはいえ、「感情的にならない」は言うは易し、行うは難しじゃないですか? 

佐藤 そうですね。ただ、4人を育てれば、20数年もの時間を子育てにあてることになります。私の人生において20年は、短い時間ではありません。そのなかで、私自身も何かを学ばないと意味がないと思ったんです。少しでもいいから人間としてレベルアップしようって。そのときに、「感情的にならず、落ち着いて考えられる力」を身につけようと思って。

ムーギー へえ、生まれつきそうだったわけではなく、意図的に身につけたスキルなんですね!

佐藤 ええ。そりゃあ、子どもが生まれるまで……生まれてからも、感情的になったことはありますよ(笑)。でも、すぐに反省して、次回そうならないためのノウハウを考えていました。

ムーギー 佐藤さんは、二度と同じ間違いをしないためにテストの復習をするように、ご自身も失敗から学ぶことを重視されていますよね。昔から、失敗から教訓を得ようと考えるタイプだったんですか?

佐藤 失敗したくなくても、失敗しないで生きることはできませんよね。だったら、そこから学ぶしかないと思っていて。それをあらためて意識したのは、1987年、あの日航機の墜落事故のときかもしれません。

ムーギー というと?

佐藤 あのとき、「ジャンボ機の安全神話が崩れた」と言われていたのを覚えていますか? 私、「何で神話にしてしまったんだろう?常に失敗を前提にしないとダメじゃないか」と思ったのを強烈に覚えているんです。ちょっとした失敗からちょっと学んでちょっとずつ直していけば、致命的な大きな失敗を防げるはずなんだから、と。

ムーギー それを自分に置き換えると、小さな失敗を見逃さないためにも「自分は大丈夫」という「神話」を持たないほうがいいと。

佐藤 はい。よく「5人目の子どもがいたらもっとこうしたのに、と後悔していることはありますか?」と聞かれるんですけど、キッパリ「ありません」と言えます。それは、失敗を前提にして、日々失敗を見つけては改善してきたから。そのときの反省はすべて、4人の子どもに活かしているからです。

ムーギー うーん、すばらしいですね。失敗を前提にするからこそ、失敗を活かせる。子育てのPDCAサイクルが回っているというか。一流のビジネスマンの姿勢そのものです。

佐藤 この姿勢は、受験にも役立ちます。「自分は失敗する人間なんだ」と思えば、なるべく失敗しないよう、一生懸命勉強するでしょう?勉強は面倒だから、つい生半可な理解でよしとしたり、わかったフリをしたりしてしまうものです。でも、「まあいいか」で飛ばしてしまうと、本番で大失敗してしまう。子どもたちには、「日頃から絶対に失敗しないぞ、という覚悟で勉強にのぞみなさい。それでもしてしまった失敗は、絶対に役立つから」と伝えていましたね。

ムーギー 「中途半端な理解で留めておかないこと」は、仕事をするうえでも非常に大事なポイントです。出世が早い人や仕事ができる人ほど、仕事でよくわからないところがあったとき、しらみつぶしに調べる傾向がありますから。

(構成:田中裕子 撮影:柳原美咲)

(後編は6月6日に掲載予定です)