米大統領選挙で勝敗を分ける要因ともいわれるのが、草の根選挙運動だ。各大統領候補者を支持するボランティアたちが、地道に細かな地域ごとに支持基盤を固めていくその手法に迫った。

 大統領選挙に向けた民主・共和両党の候補者選びが進む米国。大票田を含む5州で一斉に予備選挙が行われる山場の一つ、3月15日の「ミニ・スーパーチューズデー」まで2日と迫ったオハイオ州で、ヒラリー・クリントン陣営の選挙運動現場を直撃取材した。

 大統領選は、華やかなテレビ討論会などの裏で全米各地で展開される地域の草の根運動にも支えられている。取材に応じてくれたのは、ボランティアとして駆け付けていた弁護士のアドリーン・デックマンさんだ。

 草の根運動の手法は主に二つ。電話をかける「Phone Bank」か、戸別訪問の「Canvass」によって、有権者に支持候補者への投票を呼び掛ける。地域住民のターゲットリストを独自に作成し、党内の大統領候補者を選ぶ予備選の間は、同じ党員に狙いを定めて支持を訴えるという。

投票者データは公的情報

インターネットからダウンロードできるオハイオ州の選挙投票者データ Photo by Takahisa Suzuki

 驚くべきことに、オハイオ州ではインターネットからリストの土台となるデータがほぼ全てダウンロードできてしまう。名前や住所、生年月日に加えて、過去の予備選で共和・民主どちらの党に投票したかまで分かってしまうのだ。

 州によって掲載項目やデータの取得方法などに違いはあれど、米国ではこうした投票者データが公的情報とされ、選挙活動に生かすことができるという。選挙時の戸別訪問が禁止され、個人情報の扱いに厳しい日本では考えられない話だ。

 戸別訪問部隊はリストの住所を基にグーグルマップにターゲット宅を落とし込み、その地図を頼りに近隣の家々を一軒ずつ回っていくのだ。

グーグルマップ上に投票者の自宅を落とし込み、戸別訪問用の独自マップを作成 Photo by T.S.

 どの陣営も同様に草の根運動を展開しているが、ミシガン州で取材した同じ民主党候補者であるバーニー・サンダース陣営は、ミネラルウォーターとチラシを持参して戸別訪問へ散った。チラシは家のドアノブに引っ掛けられるようになっていて、サンダース陣営がローラー作戦を敢行した一帯の家々の玄関前には、この2点セットが置かれていた。

 各陣営とも投票を訴えるだけでなく、訪問先の有権者が支持する候補者や支持の度合い、話す言語は英語かスペイン語かなど、多くの項目が書かれたチェックリストを持参。データ収集も同時に行い、選挙運動の戦略を練るのに生かす。

支持する候補者や英語を話すかなどのチェックリストを持参して戸別訪問する Photo by Wakako Otsubo

 インターネット上での選挙グッズ購入や寄付の場でも、データを盛んに収集している。名前や住所、電話番号、メールアドレスなどを収集し、グッズ購入の場合は、例えばTシャツと帽子の購入者では支持者としての傾向が異なってくるので、そうした分析も行われているという。

 「全米の無数の地域で繰り返される草の根運動の緻密さが、選挙の勝敗を分ける一因」(米国在住ジャーナリスト)ともいわれる大統領選。ボランティアの人々は今日も米国のどこかで、支持する候補者の分身となって選挙運動にいそしんでいる。