交渉のキモが2分でわかる新連載。ビジネスパーソンなら知っておくべき「交渉」のテクニックを解説します。交渉を初めて学ぶ人、世界標準の定番スキルを学び直ししたい人に。弱い立場でも、もう負けない!

カルロス・ゴーン氏は
「ウィンウィン(Win-Win)」と言うが…

 先日、三菱自動車と日産自動車が、資本提携に合意したと発表しました。
 その席で、日産自動車のカルロス・ゴーンCEOは、「本件は画期的な合意であり、日産と三菱自動車の双方にウィンウィン(Win-Win)となるものです」と述べたそうです。
(三菱自動車ホームページ「プレスリリース」より)

 交渉で目指すべきものとして、使われることの多い「ウィンウィン(Win-Win)」という言葉。
 どちらかが勝って、どちらかが負けるというのではなく、両者ともが利益を得られることを指します。交渉のゴールとして理想的な状態です。

 でも、そうかんたんに「ウィンウィン(Win-Win)」状態に至れるわけではありません。
 今日は、どうしたら「ウィンウィン(Win-Win)」が達成できるのかをお話ししましょう。

両者が得られる
利益の合計を増やす

 交渉において、その交渉の対象となっている事柄を「論点」(あるいは「争点」)と呼びます。
 多くの場合、一つの交渉における論点は一つではありません。実際は、一つの交渉でも、複数の論点に分解できることが多いのです。

 たとえば、あなたが転職活動をして、ある企業から内定を得たとしましょう。

 ここからあなたがその企業に対して行う交渉は、ひとくちに言えば「労働契約に関する交渉」ですが、給与、役職、勤務形態、業務内容等々、さまざまな論点に分解することができます。

 「ウィンウィン(Win-Win)」をもたらすには、実は論点は複数あると認識することが第一歩です。
 そして、複数の論点それぞれについて、お互いがどの程度の価値を感じているかを調べていきます。
 この結果、自分と相手とで、感じている価値が異なる論点が見つかればしめたものです。

 「自分にとって価値が小さく、相手にとって価値が大きい論点」については相手に譲歩し、その見返りに、「自分にとって価値が大きく、相手にとって価値が小さい論点」でこちらに有利にしてもらうのです。

 このようにして、お互いが得られた価値の大きさの合計を増やしていこうという交渉を、「価値創造型」交渉と呼びます。

立場が弱い方こそ
隠れた論点を探して「価値創造」へ持ち込む

 これに対して、単一の論点について争う場合は、一方のトクがもう片方のソンになるという、いわゆる「ゼロサム」型になりがちです。

 注意が必要なのは、この「ゼロサム」型の交渉でも「双方が満足する妥協点」は作れてしまうという点です。 

 たとえば、Aが圧倒的に立場が強いことを、A、Bともにわかっている時、当初Aは、自分にとって大きく有利な案を出しておき、最後に少し譲歩してみせることでBを「満足」させつつ合意できる、といった具合です。

 双方が満足しているのだからそれで十分と思うかもしれませんが、立場の弱いBにとってみれば、やはりもう少し粘って「価値創造」を目指していきたいものです。
 本当に論点は一つしかなかったのでしょうか。立場の弱いBこそ、隠れた論点を見つけだして根気強く協議を重ねたいところでした。

 拙著『グロービスMBAで教えている 交渉術の基本 ――7つのストーリーで学ぶ世界標準のスキル』では、海外の商品の日本販売権をめぐる交渉を例に、実は複数の論点があることに気づいたことから、「ウィンウィン(Win-Win)」の結果を得られたケースを解説しています。
 そちらも参考にしていただければと思います。

 さて、冒頭で紹介した日産と三菱自動車のケースでも、たとえば単に「日産が取得する三菱自動車株の割合」だけが論点というわけではありません。
 人事、技術移転、営業協力、ブランド等々、今回の戦略提携に関して論点は実に多岐にわたることでしょう。

 これらについて、互いにとっての価値の違いを見極め、双方が得られる価値の合計を最大化できるか。
 ゴーン氏の言う「ウィンウィン(Win-Win)」の実現が注目されます。