高齢者の社会保障費・医療費の単純な削減は、富裕層の高齢者にはほとんど影響がない代わりに、いわゆる「下流老人」と呼ばれる層により深刻な影響が出てしまうからだ。まさに弱者切り捨てとなってしまい、それは避けるべきである。だから、まずは予定通り増税を実行すべきだと考えるし、今回は延期でも、次回は必ず実行すべきである。ただし、これからは「増税できれば社会保障費の増加に使い、できれなければ社会保障費を削減する」という従来の発想を超えなければならないだろう。

 例えば、八代尚宏氏は「年金財政悪化の主因が平均寿命の伸長にある以上、高齢者がそれだけ長く働き、税金や社会保険料を払い続けることが、勤労世代の負担増を抑制する、最も効果的な手法だ。現行の高齢者人口比率の高まりに比例して年金額を引き下げる窮乏化方式よりも、平均寿命の伸長にスライドした年金受給年齢の引き上げの方が、高齢労働者を増やすことで、少子化社会にふさわしい政策」と主張する。

 また、年金の受給開始年齢の引き上げは「同一労働同一賃金原則等、労働市場改革と一体的に行う」必要があるとする(八代尚宏「増税の代わりに社会保障費削減断行で「民主主義」に切り込め」)。つまり、定年制をなくして働ける高齢者には働いてもらい、税金もしっかり払ってもらうということだ。換言すれば、これは日本型雇用制度で強制的に65歳までとされている「労働力」の定義を変えることである(井手・古市・宮崎「分断社会を終わらせる」2016)。労働力の定義を変えられれば、現在の人口構成でも、実質的に労働力を増やすことができる。前述の2050年の「肩車」は、「騎馬戦」に収まる可能性があるかもしれないのだ。

 要するに、2年後までに考えるべきことは、まずベースとしての2%の消費増税をしっかり実現することだ。その上で、定年制をなくして働ける高齢者には現役と同じ条件でいつまでも働いてもらい、所得税を払ってもらうと同時に、年金受給年齢を引き上げる。その理解を広げていくために、「若者のための増税」という新しいロジックを立てることだ。

 もちろん、年金受給年齢は一律に上げるのではなく、働けない方には従来通り65歳から年金を支給し、「下流老人」増加を防ぐという配慮が必要だ。柔軟な制度設計がいいのは言うまでもない。

「元気な高齢者は働け」というと、「高齢者いじめ」のように捉えられて批判されることが多い。しかし、それが「孫を助けることになる」というロジックならば、高齢者の抵抗感は少ないのではないだろうか。日本人は変わったというが、今でも情に溢れた国民性だ。「孫のためなら」というロジックが打ち出されるならば、高齢者の方はもちろんのこと、国民全体に理解を得られる可能性は高いと筆者は考える。

 そして、前述の通り、消費低迷の理由が将来不安にあるならば、「若者のための増税」こそ、ベストな景気対策となるのである。2年間の増税延期は決まってしまったが、その間に我々が将来のために考えるべきことは多い。政局に翻弄されるだけではない、真の政策論議が政治に求められているのではないだろうか。

<参考文献>
井手英策・古市将人・宮崎雅人(2016
『分断社会を終わらせる:「だれもが受益者」という財政戦略』筑摩選書