「否定病」を生む最も深刻な原因は?
最後の一つは最も深刻なもので、「減点主義」。
現場の営業であれば「いくら売った」が明確にわかるし、工場であれば「生産性を○○%向上させた」「何千万円のコストダウンを果たした」などが数字に表れるし、製品開発は「こんな製品を開発した」と仕事がかたちに残る。
だが会社には、プラスにしろマイナスにしろ成果が数字など目に見えるかたちとして見えにくい部署もある。そうした仕事では、失敗ばかりが目立ってしまう。
10の仕事をして9つうまくいってもその成果は目に見えず、たったひとつの失敗が問題になるとしたら、リスクに対して神経質になってしまうのは当然だろう。
すると彼らは、新しい仕事に対して、「できない理由」を挙げることに気持ちと時間と頭を使うようになる。習慣と慣れによって、そんな仕事の仕方が定着していく。
なぜその提案は難しいか。どんなリスクがあるのか。なぜ効果がないのか……。チャレンジを退ける発想ばかりどんどん出てくるようになる。
たしかに、何もやらなければマイナスには決してならない。「マイナスになる提案を退けてゼロにしたのだからプラスだ」という理屈もある。だが、それでもゼロはゼロだ。乱暴な言い方だが、否定から入っていては、生産性は永遠にゼロになる。
業種を問わず、個人を問わず、中堅やベテランになるにつれて、「否定病」にかかる確率は高くなっていく。それも、優秀で真面目な人ほど失敗を恐れるために、症状は重くなる。
「否定病」の一番の予防策は、「努力とは成果を出すためにある」と肝に銘じることだ。
マイナスを出す可能性があろうと怖がらずに挑戦する。
最終的にはプラスになるよう努力するのが、私たちが参加しているビジネスというゲームのルールだ。「成果はゼロでも赤字じゃない」という考え方は、このゲームには適さないのだと腹をくくろう。
また、会社側は、優秀な人材を企画部門のスタッフに固定しがちだが、「否定病」を防ぐには、彼らを同じセクションにあまり長くとどめないような人事を考えるべきだ。
思考は筋肉に似たところがあり、同じことを繰り返すと癖がつく。
プロ野球の選手は、オフのゴルフでは左打ちの人があえて右打ちをしたり、シーズン中とは反対のバッターボックスに入ってスイングしたりして矯正する。
ビジネスマンも意識的に新しい仕事に取り組んだり、ふだんとは違ったプロジェクトチームに参加したりすることで、身についた習性を柔軟にできる。
大切なのは、面倒がらないことだ。
「いつもとは違うこと」をやるのはつねに面倒だ。だが、「新しいことにチャレンジするのは面倒くさい」「例外を検討するのは面倒くさい」となってしまったら、個人も組織も、そこで成長が止まってしまう。
世の中の状況はつねに変わり、顧客も競争相手も変わっていく。自分が成長しなければ、みんなが走っている中で一人取り残されてしまうことになる。つまり、成長が止まるというのは現状維持ではなく、ずるずるとマイナスに滑り落ちていくことなのだ。
(※この原稿は書籍『マッキンゼーで25年にわたって膨大な仕事をしてわかった いい努力』から抜粋して掲載しています)