本当の「仕事の喜び」を求めて起業したが……

 当時、私は能力開発とモチベーションを高めていくプログラムを実施するトレーニング部門の管理職で、12人のチームのリーダーだった。

 しかし90年代はじめの日本。バブルがはじけ、市場は大低迷期に陥る。企業も人材育成になどお金を払えないと、研修事業は一気に需要がなくなる。

 ここで私たちの会社も、業績が急降下してしまったのだ。

 私が勤めていた会社は外資系企業で、非常にシビアだった。私は自分が育ててきた人材を、リストラするよう命じられた。

 社員のなかには私の研修に影響され、それまでいた会社を辞めて部下になってくれた人までいた。命じられるままに非情になることはできなかった。

 「なら、俺が辞める」

 辞表を叩きつけ、私は外資系企業を出ていってしまったのだ。

 辞表を叩きつけたあと、私が考えたのは、自分たちで会社をつくってしまうということだった。

 そうすればもう、社員同士の競争とは無縁になる。自分たちの好きなように事業をつくり、自分たちの好きなようにプランをつくる。これで本当の「仕事の喜び」が感じられるのではないか……?

 そう思ったものの、結局、このときの起業は大失敗に終わってしまう。

 それも当然で、もともと私がいた研修会社も、バブル崩壊のあとでクライアントが少なくなり、リストラに追い込まれていたのである。無名のコーチが起業したところで、簡単に人が集まるわけがない。

 最初は、それまでのクライアントさんが力を貸してくれたおかげで順調に滑り出すことができた。しかし、みるみるうちに事業は下降線をたどり、銀行でお金を借り、さらにお金を借り……という状態が続く。

 すぐに経営はたちゆかない状況になった。