メディアの過剰な攻撃が
「政治家人材の劣化」を招いている
立場や信条は異なっていても、友人たちは皆、大統領になるのはクリントン氏しかいないと言う。中国とロシアを除けば国際社会の多くの国や民族もおそらく、似たような思いではないだろうか。ただ、同氏にはeメールの私的使用に関して起訴される可能性があることも忘れてはならないだろう。
候補者同士の公開討論で飛び交う言葉の激しさと下品さ、自分のみ正しく相手は間違っているという非寛容な価値観に友人たちは皆ウンザリしていた。なぜ、このような人々ばかりが大統領選予備選に出るのか。激しいメディアの攻撃でまともな人が政治から遠ざかることによる人材の劣化ではないかと、友人たちは嘆く。
メディアが激しい政治家たたきを始めたのは、ジョン・F・ケネディ大統領の後継者となったリンドン・ジョンソン大統領のときだというのは「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙でのリード・J・エプスタイン氏の分析だ。ベトナム戦争の解決をめぐってメディアを敵に回したという理由だそうだ。
メディアによる大統領とその家族への攻撃は、リチャード・ニクソン大統領のときにさらに激化し、ウォーターゲート事件をきっかけに「調査報道(investigative journalism)」が脚光を浴びたと氏は指摘する。
パナマ文書の分析を進めているのも国際調査報道ジャーナリスト連合であり、優れたメディアに調査報道は欠かせない。それは1面ではスキャンダル暴きとなる。いまその効果はインターネットで異次元にまで高められた。
トランプ氏はそうした状況の中で登場した。真実性に疑問の付きまとう攻撃がネットで拡散され、力を持ち、アメリカも世界も揺らいでいる。こんな時代の防御策は、ひたすら賢くなることしかないのである。
(『週刊ダイヤモンド』2016年4月23日号の記事に加筆修正)