脳を疲れさせる「ジャッジメンタル」とは?

「どんな考えが浮かんでくる?」

ここは〈モーメント〉のバックヤード。目をつむって椅子に座るトモミに向かって、私は静かに話しかけた。彼女は少し思いを巡らすような様子を見せたあと、つぶやいた。

「えっと……恥ずかしいんだけど、いつまで経っても家事がちゃんとできないのよ、私。今日も部屋を散らかしたまま仕事に来ちゃった。夫は朝から晩まで頑張って仕事してくれてるのに、私ったら本当に要領が悪くて……」

「じゃあ、それを1つのセンテンス(文)にしてみて」

私がラベリングを促すと、トモミは「私は家事ができないダメな人間だ」という文をつくった。

「トモミ、まずはその考えの存在を認めましょう。あなたの頭にはいつもその考えが浮かんでくる。だとしたら、この考えをどう修正できるかしら?いくつかやり方はあるけど、いちばんシンプルなのは『善し悪しで判断するのをやめる』ことね。家事ができていないのは事実だとしても、それが『ダメ』につながるのはなぜかしら?そもそも、旦那さんはそんなあなたを本当に『ダメ』だと思っているのかしら?」

私から見る限り、トモミの「自分は要領が悪い、ダメな人間だ」という考えは、「認知の歪み」以外の何ものでもなかった。少なくとも職場での彼女を見ていて、「ダメ」なスタッフだと感じる人はまずいないだろう。やはり彼女はあまりにもジャッジメンタルなのだ。

「あとは、あなたが尊敬する偉人を思い浮かべてみて。彼・彼女だったら、あなたの『私は家事ができないダメな人間だ』という考えに対して、どんなことを言うかしら?あくまで想像でかまわないわ」

あとで聞いたところ、彼女はマザー・テレサのことを思い浮かべていたらしい。瞑想が終わるころには、ずいぶんとトモミの表情が明るくなった。

「ナツ、今日はありがとう。何だか、心が軽くなったわ。本当に頭の中から、うるさいサルが1匹去っていったような感じ」

瞑想が終わったあとも、トモミは静かに内省を続けている様子だった。

自分自身のディープニーズへの探求がはじまったようだ。

ディープニーズか……。私の「深い願望」は何だろう。

どうして私の中には、研究に対する焦りが絶えず浮かんでくるのだろう?

なぜマインドフルネスに対する反発を捨てきれないのだろう?

脳裏にはまたもや父の顔がちらついたが、そのことについては、まだヨーダに話す気にはなれなかった。