既存の不動産流通に風穴を開けると宣言し、昨年11月にヤフーとソニー不動産がスタートさせたウェブ仲介サービス「おうちダイレクト」の伸び悩みが指摘される。日本では「不動産テック」は浸透しないのだろうか。(「週刊ダイヤモンド」編集部 岡田 悟)
「不動産における情報の非対称性への挑戦。マンション流通革命、はじまる」──。昨年11月、ヤフーとソニー不動産がこう高らかに宣言して開始した、インターネットでの不動産仲介サービス「おうちダイレクト」。中古マンションを「自分で決めた価格でいつでも自由に売り出せる」というのが最大の売りだ。
金融とIT技術の融合を指す「フィンテック」に倣って「不動産テック」と称されるサービスの中では最大の注目株だったが、ふたを開けてみれば、スタートから3カ月、2月末時点での成約件数はゼロ。その後複数の成約があったもようだが、件数は非公表であり、実態は不透明なままだ。
サービスの対象エリアも、当初の東京都心6区から23区、そして横浜市や川崎市へと拡大。今月始めた投資用物件の事前募集の申し込みが多く、「今後のさらなる伸びが期待できる」(喜志武弘・ソニー不動産取締役)というが、どれだけ成約につながるかは未知数だ。
なぜ、伸び悩むのか。その前にまず、不動産業界における「情報の非対称性」から解説しよう。
一般に、マンションを売却する場合、大手不動産の子会社など仲介業者の査定を受けて価格を決め、買い手を探してもらう。ここで問題になるのが、「両手仲介」と「不透明な販売価格」の二つだ。
業者の取り分は、仲介手数料である成約価格の3%+6万円。これを売り手と買い手の双方から受け取る「両手仲介」が最も実入りがいいため、他の仲介業者から物件買い取りの相談があっても無視したり、意図的に情報を隠蔽したりする「囲い込み」などの“悪習”に手を染めることになる。
また、販売価格については、売却しやすいように売り手の意向よりも低く設定しがちだ。
2014年8月に不動産仲介事業を開始したソニー不動産はこうした手法とは一線を画し、両手仲介を行わず、仲介手数料も生じたコストに応じた金額に設定して差別化を図ってきた。