例えば、介護老人保健施設(老健)には医師が常駐しているし、特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)においても契約している医師がおり、定期的に診察に訪れる。その他の高齢者対応の集合住宅も同様に定期的に訪問診療が行われるなど、医療の役割が充実している。

 おそらく日本の高齢者施設に新型コロナのクラスター感染が少なく、死亡者数が少ない理由は、介護施設従事者が必ずしも得意ではない感染管理に対して、医療従事者からのアドバイスがあったことが大きいのではなかろうか。

 ちなみに、医療崩壊を起こさずにピークアウトした韓国は、近年の急速な高齢化に伴い、高齢者対応施設を36.1%増加させているが、その中で療養病床を急速に増加させ、高齢者対応に占める病院の割合は60%以上と世界最大である。

 前回の論考では、医療キャパシティーが日本では大きかったことを、医療崩壊が起きにくい理由として記載したが、同じように、日本では医療介護連携が進んでいることを日本の死亡者を減らしている理由と主張したい。なお、日本同様に死亡者数が少ない東南アジアのデータはあまりないが、前掲表2のようにシンガポールでは日本同様に高齢者施設での死亡が少ない。高齢者対応が発展途上の国なので、直接関係があるかどうかは検証の必要があるが、シンガポールは、国土をエリアにわけて、それぞれで医療介護連携の仕組みを構築している。

 もう1つは、スウェーデンなどで見られるように、日本に比べると、欧米では高齢者施設から病院への搬送が少ないことが想像される。私が訪問調査した時も、「高齢者施設では発熱くらいでは、病院に搬送しないのが普通」との説明を受けた。もちろん日本では、一時的な発熱はともかく、何日も発熱が続けば、肺炎などを疑って搬送されるケースが多い。また、海外では総じてICU(集中治療室)への入室基準が厳しく、特に北欧などでは、高齢者はICUで治療を受けることが難しい。

 以上、筆者は、高齢者施設クラスターが少ないことが日本での、コロナ感染による死亡者が少ない理由の一つだと考える。高齢者施設クラスターは非常に危険であるが、日本の医療は、海外と比べても間違いなく安心できる体制になっており、一部で懸念されている介護崩壊も起きないだろう

 しかし、今回の死亡者数が少ないという成果が偶然や奇跡といわれることなく、戦略的に医療介護分野の再編成を考えることも重要かもしれない。