ビジネスの成否は「交渉力」にかかっている。アメリカの雑誌で「世界で最も恐れられる法律事務所」に4度も選ばれた法律事務所の東京オフィス代表であるライアン・ゴールドスティン米国弁護士に、『交渉の武器』(ダイヤモンド社)という書籍にまとめていただいた。本連載では、書籍から抜粋しながら、NTTドコモ、三菱電機、東レ、丸紅などの代理人を務めるほか、世界的に注目を集めるビジネス訴訟で戦っているライアン弁護士の交渉の「奥義」を公開する。

二流は交渉前に「落とし所」を考え、<br />一流は「いつ“NO”を言うか」を決める

「あれもこれも」ではつけ入る隙を与える

 交渉に臨むときには、何よりも冷静になることが重要だ。
「怒り」や「恐れ」などの感情にとらわれたままアクションを起こせば、自分が望んでいない事態を引き起こすだろう。感情から離れて理性的になる。そのうえで、冷静に自分が置かれている状況を見極めながら、「何を目的に交渉するのか?」「交渉で何を得るのか?」を考えなければならない。

 とはいえ、これは決して簡単なことではない。
 私のもとを訪れたクライアントに「交渉の目的は何ですか?」「交渉で何を得たいですか?」と尋ねると、多くの人は言葉に詰まる。確信をもって「これだ」と答えることができるのはほんの一握り。多くの人々が、「あれも大事、これも大事」と焦点が定まらないのだ。

 もちろん、交渉において争点になるテーマはどれも大事だ。お互いにとって大事なことだからこそ、争点になると言うべきだろう。だから、「あれも大事、これも大事」となるのも、当然といえば当然のことではある。

 しかし、これでは交渉にならない。
 交渉には相手がいる。駄々っ子のように「あれもほしい、これもほしい」と訴えても通らない。むしろ、相手から「話にならない」と交渉決裂を突きつけられるのがオチだ。そして、交渉決裂にうろたえているのを見破られれば、「この条件を飲めば、交渉に応じる」と、その心理を利用される結果を招くだろう。「あれも大事、これも大事」では、相手につけ入る隙を与えるだけなのだ。