ビジネスの成否は「交渉力」にかかっている。アメリカの雑誌で「世界で最も恐れられる法律事務所」に4度も選ばれた法律事務所の東京オフィス代表であるライアン・ゴールドスティン米国弁護士に、『交渉の武器』(ダイヤモンド社)という書籍にまとめていただいた。本連載では、書籍から抜粋しながら、NTTドコモ、三菱電機、東レ、丸紅などの代理人を務めるほか、世界的に注目を集めるビジネス訴訟で戦っているライアン弁護士の「交渉の奥義」を公開する。
そもそも「交渉」とは何か?
交渉(Negotiation)とは何か?
まずは、その根本的な認識を確認しておきたい。
地面にしっかりと根を張っていない樹木は倒れやすいが、それは交渉でも同じだ。枝葉の交渉テクニックを多少身につけたところで、交渉に向かう根本的なスタンスが脆弱であれば、苦もなく相手に揺さぶられてしまうだろう。そして、不利な交渉を強いられてしまうのだ。
そこで、交渉の定義を確かめることから始めようと思う。世界で最も権威のある英語辞典である『オックスフォード英語辞典』の“Negotiation”の項目には、“Discussion aimed at reaching an agreement.”と書かれている。日本語に翻訳すれば、「合意に達することを目的に討議すること」となる。
この定義に異議を唱える人はいないだろう。
交渉のテーブルにつくということは、話し合いによって利害調整をめざすことに、当事者が合意しているということにほかならないからだ。「合意をめざす」ことへの合意がなければ交渉は成立しない。お互いの言い分を押し付けあうだけであれば、すぐに話し合いは暗礁に乗り上げるだろう。それを交渉とは言わないのだ