「合意できる条件」から考え始めてはいけない

 別の状況でも考えてみよう。
 仕事を依頼してきた担当者が、長年お世話になってきた人物であればどうだろうか?本当は引き受けたくないが、彼との関係を壊したくないと考えるはずだ。しかも、相手に「困ってるんだ。助けてほしい」と頼まれたのであれば、恩を売ることで、今後、条件のよい仕事を依頼してくれるかもしれない。この場合には、「人間関係の強化」が交渉目的となるだろう。

 であれば、「交渉決裂ライン」は、物理的な条件である「納期1ヵ月半」だけにしてもいいかもしれない。ただし、その条件で合意した場合には、「本来は30万円では引き受けられない仕事だ。今回は特別だからね」などと釘をさすとともに、さりげなく恩に着せておくべきだろう。

 このように、「交渉決裂ライン」は状況によって変わってくる。
 重要なのは、自分が置かれている状況を見極めて、「交渉の目的」を明確にすることだ。「交渉の目的」をはっきりさせれば、おのずと「交渉決裂ライン」も明確になる。そして、「絶対にゆずれないもの」と「譲歩してよいもの」を整理することができれば、「譲歩カード」を使って「交渉の目的」を達成する戦略も見えてくるのだ。

 こう言ってもいいだろう。
「合意できる条件」から考え始めてはいけない、と。
 なぜなら、相手の出方次第で「合意ポイント」はいかようにも変化するからだ。そのようなあやふやな見通しのもとに交渉を始めてはいけない。「絶対に譲れない一線」を明確にして、それを死守するために「譲歩カード」を切る。そのプロセスで「合意ポイント」が見つかれば合意すればよいし、場合によっては交渉決裂を選択する。これは、あらゆる交渉に共通する基本的な原則なのだ。