時代や環境変化の荒波を乗り越え、永続する強い会社を築くためには、どうすればいいのか? 会社を良くするのも、ダメにするのも、それは経営トップのあり方にかかっている――。
前著『戦略参謀の仕事』で経営トップへの登竜門として参謀役になることを説いた事業再生請負人が、初めて経営トップに向けて書いた骨太の経営論『経営トップの仕事』がダイヤモンド社から発売。好評につき発売6日で大増刷が決定! 日本経済新聞の書評欄(3月27日付)でも紹介され大反響! 本連載では、同書の中から抜粋して、そのエッセンスをわかりやすくお届けします。好評連載のバックナンバーはこちらからどうぞ。

トヨタはなぜ、<br />中古のワープロ専用機「オアシス」を<br />大量に社員に配布したのか?Photo: Adobe Stock

経営に魔法の道具はない、という大前提に立つ

「最新のIT技術を導入して、どこよりも競争力のある商品企画を実現しましょう」

 このような売り込み営業やビジネス誌での訴求は、いつの時代にも絶えません。しかし我々は、「経営には魔法の道具などはない」という大前提に立つところから始めるべきです。

 80年代は、多くの企業で富士通の「オアシス」などのワードプロセッサー、通称「ワープロ」と呼ばれる専用機がデスクワークに使われていました。当時はまだ高価だったため、部署に1台程度しかなく、それを数人でシェアして、予約制で順番待ちをしながら資料づくりに使っていたのです。

 ある時、富士通がこのワープロ専用機の「オアシス」から、ワードプロセッサーソフトウェア「オアシス」を搭載したデスクトップ型FMシリーズというPCの導入に切り替えることを発表しました。

 さて、この報を受けて、当時のトヨタはどう動いたでしょうか。

 ワープロ専用機「オアシス」は、親指シフトなどの独自の使いやすい機能を搭載し、それに慣れた多くのユーザがいました。この富士通の決定により、世の中にはリース契約が終了した中古の専用機「オアシス」が大量にあふれました。

 この時トヨタは、簿価がほぼゼロになっているこの中古機を大量に引き取り、必要とする社員に一人1台ずつ渡して資料作成の生産性を上げたのです。

 FMシリーズのデスクトップPCにソフトウェアとして移植されたワープロソフトの「オアシス」は、その後、初期の製品にはつきもののバグ(不具合)が改良されて、使いやすくなっていきました。

 そして、デスクトップPC上でもバージョンアップを重ねて安定状態になったワープロソフトの「オアシス」となった頃に、ようやくトヨタではPCの導入を始めました。