保険商品の開発担当者を悩ます「逆選択・モラルリスク」対処法

和歌山毒物カレー事件の発生以降
保険の契約確認が厳格化

 1998年――。

 保険の規制緩和および自由化が始まり、保険会社の監督官庁である大蔵省(現財務省)へ毎日のように通っていたころのことだ。ある日、大蔵省の担当者の人から呼び止められた。「他人に毒物を飲まされた場合は、傷害保険でも保険金が支払われますか?」

 慌てて頭を回転させ、傷害保険の支払い要件が「急激かつ偶然な外来の事故」であることをとっさに思い出し、「傷害保険でも保険金は出ます」と答えた。その後、保険会社全社に確認が入り、大々的に調査が行われた。いわゆる和歌山毒物カレー事件として知られる一連の事件である。

 保険業界においては、それまでも保険金詐欺と推測される事件は多数発生していたが、契約時の厳格な確認が求められることになったのは、この事件がきっかけであったと記憶している。冒頭の数字はこの事件が発生した年である。

 そう、保険という金融商品には、逆選択リスクやモラルリスクという重要なリスクが存在する。保険会社で商品開発担当者、保険契約時に引き受けの可否を判断するアンダーライティング担当者や保険金部の支払担当者にとっては、非常に頭が痛い問題である。

逆選択リスクとは?

「金融機関と消費者の間には情報の非対称性がある」とは、よく聞く話である。つまり、金融機関が提供する金融商品は内容が複雑であり、金融商品の提供を受ける消費者が全体像を理解することは難しいということだ。そのため、金融商品にはさまざまな法律上の規制やガイドラインが設けられており、消費者保護を図っている。

 一方、保険の場合はどうであろうか?

 もちろん保険も金融商品の一つであり、保険の内容自体には保険会社と加入者の間で情報の非対称性が存在する。

 ただし、人の体や健康に関する保険の場合は、逆の意味で情報の非対称性が存在する。つまり、加入者の健康状態について保険会社は十分な情報が得られず、加入者にしか本当のところが分からないという意味である。この加入者の健康状態に関する情報の非対称性を解消すべく、保険会社は加入時にお客様の健康状態を確認し、条件をクリアした加入希望者のみが保険に加入できる。

 ところがだ。保険会社の告知や医的診査を通ったとしても、リスクの高いお客さまばかりが集中して保険に加入するケースもある。