マサチューセッツ州の補欠選挙で民主党候補が敗れたことで、上院での民主党の議席数は医療保険改革法案などの法案を通すのに必要な60議席を割り込み、アメリカの政治状況は少なくとも当面は変化した。だが、この選挙結果は、アメリカの有権者と経済について何を物語っているのだろう。

ジョセフ・E・スティグリッツ
ジョセフ・E・スティグリッツ(Joseph E.Stiglitz)
2001年ノーベル経済学賞受賞。1943年米国インディアナ州生まれ。イェール大学教授、スタンフォード大学教授、クリントン元大統領の経済諮問委員会委員長、世界銀行上級副総裁兼チーフエコノミスト等を歴任。現在はコロンビア大学教授。Photo(c)AP Images

 一部の識者の主張とは異なり、この結果は有権者の右旋回を示しているのではない。これが伝えているのは、有権者が17年前にビル・クリントン大統領(当時)に送ったのと同じメッセージ――「問題は経済だ」「仕事をくれ、仕事を」というメッセージなのだ。現に、東部のマサチューセッツ州からはアメリカの反対の端に位置するオレゴン州では、住民投票で示された有権者の判断は増税支持だった。

 成長率がプラスに転じ、銀行の幹部たちが再び巨額のボーナスを手にするようになっていても、アメリカ経済は依然としてひどい状態にある。フルタイムの仕事に就くことを望んでいるアメリカ人の6人に1人以上がそうした職を得ることができず、失業者の40%が失業期間が6ヵ月以上の長期失業者だ。

 ヨーロッパがずいぶん前に思い知らされたように、失業期間が長くなればなるほど苦難の度合いはひどくなる。仕事の技能や就業の見通しが低下し、貯金が底を突くからだ。今年は250万~350万件の差し押さえが予想されており、これは2009年の件数を上回る。おまけに商業用不動産の分野で多くの大型倒産が予想されており、年明け早々にその第1号が発生した。議会予算局でさえ、わが国はアメリカ版「日本病」を患っているので、失業率が通常の水準に戻るのは10年代半ばになるだろうと予測している。